柴犬主任の可愛い人
帰りの車中は静かだった。ちょっとやそっとじゃ起きないとは言われたけど、天使のような笑みで眠る真綾ちゃんが気になりながら、帰りは亮さん運転のワゴンの三列目にひとりゆったりと収まる。
運転席の亮さんと助手席に座る華さんに今日のお礼と楽しかったことを伝えると、また機会があればと誘っていただけた。
「今度はシバケンなしでも大丈夫だろう?」
「おい亮ちゃん!!」
「はい。そうですね。お二人と真綾ちゃんさえ良ければ」
「いいに決まってるじゃない。真綾も、青葉ちゃん大好きって突然内緒話してきたのよ。照れて言えないんだって」
なんだそれは可愛すぎる。恥ずかしいから母親に耳打ちなんてっ。感動したので、両親の了解を得てから、鼻をぴすぴす鳴らしながら眠る真綾ちゃんを記念として連写させてもらった。仕方がないから、真綾ちゃんの隣に座る柴主任とのツーショットも撮ってあげる。
「柴主任柴主任」
もそりと、真綾ちゃんが動いたので小さな声に留めておく。行きに流していた真綾ちゃんお気に入りの変身少女アニメ内、キャラクターが急に叫んだからかもしれない。
「なんですか、青葉さん」
その呼び方にまだ馴染まないのは、そのうち気にならなくなるだろうと楽観視することにした。
「柴主任も、今日はありがとうございました。楽しかったです」
僕もですと、いつもと同じ穏やかな笑顔の上にいつもより赤い色がのるのは、アルコールと日焼けのせいだな。車外から入ってくる夏の日射しは夕方になっても暴力的で、柴主任の髪を照らす。さらさらだから絹糸のよう。今日みたいな日はしっかりケアをしなくては。
楽しかったな。バーベキューは楽しくてご飯は全部美味しくて、ローストチキンは、私が一番食べちゃったかもしれない。真夏の炎天下は、けど水辺が近くにあって涼しかった。こんなのなら毎年でもいい。
楽しかったな。人には説明しづらい交遊なメンバーだけど、もういいや。柴主任がいいって言ってるし。
川で大はしゃぎしてびしょ濡れで着替え、そこかしこも走ったな。休憩は帰る前の少しのノンストップ。満腹だしビールも呑んだ。
帰り道、安全運転の車内は揺りかごのようで、そこからの記憶は一切ない。気持ちのいい睡眠をいただいてしまった。