柴犬主任の可愛い人
――……
後日談として。翌日のこと……。
ぶるりと肩が震えて目が覚める。視界に入ったのはネイビーのカーテンで、その向こうの空は明るい。しかし気だるい身体はふかふかの布団を手繰り寄せた。冷房つけたまま寝ちゃったみたいだ。
あれ……おかしいな。朝みたいだけど、いつ帰ってきたか記憶がない。てか皆とお別れしたっけ。昨日の夜はどこに抜け落ち飛んでいった?
再度寝返って身体を動かすと、昨日の服のままだと気付く。嫌だな。今日はシーツ洗うの面倒。摩擦の少ないシーツに頬擦りし、その感触を味わう。
味わう……。
味……わう?
「はあぁっ!?」
味わい、飛び起きた。そのシーツは、私が通販で買った安いやつなんかより遥かに質がよく……そういえば、ベッドもいいスプリングで横も縦も広さがある。寝返りうちやすかったはずだよ。
結論私の家じゃない!!
飛び起きたベッドの上には私しかいない。誰かの温もりが残っている気配もなくほっとする。
寝室……誰かの……。私のワンルームが入ってしまうかもしれない、いや確実に玄関と水回り抜いた分はすっぽり収まるこの空間にも、私以外の気配はなかった。
記憶がない。でもこの部屋に犯罪臭は感じられず、寝室らしい部屋からの扉を開けた。
……まあ。どちらかの二択だろうと密かに覚悟してたよ。
寝室から出た先にはリビングがあって、ソファとローテーブル以外にはあまり物がなかった。
背中を向いているソファの肘掛けから足が見える。忍び足で近付きその姿を確認し、違う選択肢のほうだったら良かったと溜め息をついた。
「……おはようございます」
タオルケットに芋虫のように丸まった部屋の主だろうその人に声をかける。肩を揺すって起こしたところ、私の顔を見て悲鳴を上げた。失礼な。
そうして、タオルケットの中――下半身のほう――を覗いた後、こう切に訴えたのだった。
「何もしてません信じて下さいっ」
「わかってますから恥ずかしいから確認しないで下さい!!」
私は、柴主任のご自宅、ベッドの上で起床した。