柴犬主任の可愛い人
後日談の、どうでもいい余談としてもうひとつ。
柴主任に枕を弁償させて下さいとお願いした。しっかりと他人が熟睡した枕なんて嫌がる人もいる。とりあえず枕カバーを勝手に外して持ってきたのを謝ると、折衷案としてそのカバーの洗濯を言われたけど、そこは粘って新しいカバーをと泣きついた。
今日中にお届けしますと別れた後、枕は結局弁償出来てないと思い出す。柴主任は、目的のすり替えがお上手だ。後でもう一回交渉しよう。
その日の夕方、今日は伊呂波はお盆休みの為、柴主任とは駅前で待ち合わせした。
一応、同じような質感と同色のカバー、そして枕交渉断裂の際の保険として、除菌スプレーを渡したら笑われる。またツボだったようだ。
旅館や病院、公共の場を引き合いに出され、結局枕はそのまま、除菌スプレーは折角だからと受け取ってもらった。
「今日中に一本丸々使いきってもらっても構いません」
「青葉さんが、自分が寝た枕を僕が使うのが気持ち悪かったら考えますよ」
考えている間にこの話は手打ちにされた。
またこうやって遊べたらいいですね、昨日は楽しかったです、と臆面もなく口にする柴主任は率直で純粋で、対するこっちが恥ずかしくなる。
そうですね――と、邪心にそれなりにまみれてる私は、柴主任を真っ直ぐ見ずに頷いた。
余談の余談。
家に帰ってから、枕もそうだけどシーツもじゃないか!! ようやく思い至った私は速効で柴主任に電話をしてその旨を伝えたんだけど、ハハハと笑いながら却下される。
「青葉さんが嫌がるかもしれないと思って洗濯しました。それで充分でしょう。安心して下さい。青葉さんが使ったシーツを洗わず密閉可能な袋に保存なんてことはしていないので」
いや、そんな気持ち悪いことは想像してませんでしたが……。
どう返していいか無言のままでいたら、再度ハハハと笑いながら柴主任から通話は切られた。
この夜も完璧な熟睡をした私は、今夜は眠れないかもとか繊細ぶった己を思い出し、布団の中でわあっと悶えた。大抵どんとこいな性格じゃないか。
私は、それなりに図太く出来てるらしい……。
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