柴犬主任の可愛い人
3・だってしがない準会員なんですから
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それは師走の上旬、給湯室でのことだった。
「柴主任にぃ、今日告白しようと思って」
少しねっとりとも感じてしまう甘い口調で最後にキャハハと笑う。アルバイトの小早川さんは私たちに宣言をした。牽制か?
「だってぇ、クリスマス予定ないってことはぁ、フリーですよねっ」
身体をしならせてテンションのあがる小早川さんに、私と先輩は直ぐ様反応出来ない。若さとはこうも素晴らしいものかと、後日先輩に漏らしてみたら、その歳の差で言うのかと仕事をひとつ多くふられたよ。
お客様アンケートの集計バイトに一ヶ月前から来ていた小早川さんは、ブライダルの専門学校の学生で、今日でアルバイトは終了となる。
「いっつも優しくてぇ、同級生にはない包容力にキュンとしちゃいました~っ」
こうキュンキュンしている小早川さんは、確か三日前には違う社員に狙いを定めていて……。いや、いいんだよ。ちゃんとその社員には断られてから柴主任をロックオンしたんだし。ここまでやるとかえって潔い。私とは大違いだ。
小早川さんは、実は柴主任が駄目なら次は広瀬だとロックオンしているのを私は知ってる。女子社員はそこそこ知っている。ストックは男性社員全員なんじゃないか? バイト最終日なのに捌ききれないだろうに。
「――、小早川さん……実は、ね……」
はぁいと声を発した先輩に身体を向け返事をする小早川さん。ゆるふわロングな髪が丸みを崩さずふわんと揺れる。小早川さんは、男の人が好きそうな女子の雛型を崩さない。服装もメイクも髪型も。徹底していると腹も立たないんだなあ。アプローチを隠さないけど、同性異姓関係なくやってみせるその全ては潔くて、それはもしかしたら、誰よりも男前なのかもしれない。
話の続きをわくわくしながら待つ小早川さんに、先輩は柴主任に関する衝撃的秘密を突き付けたのだった。
「やめときなさい。主任は………………、マザコンよ。誰よりも母が大切なのよ」