柴犬主任の可愛い人
 
 
だからクリスマスに予定がないの、これは暗黙の周知の事実だから本人には言ってくれるな。先輩は、そう小早川さんに言い聞かせていた。


マザコンかぁ、と小早川さんはくりくりした目を閉じて思案する。許容範囲内か判断するところ器はそこそこ大きいかも。


なんとか諦めさせようとする先輩は、けれど小早川さんのライバルじゃなく。先程から、ちらりちらりと私に目配せして応戦要請をしてくる。


……私はしがない準会員だけど、本会員の、ましてや先輩に逆らえるはずはなかった。


「そ……そうだよ小早川さん。柴主任はなかなかの事故物件だよ~」


突然のことに、家探しの際の懸念要素しか口に出来ず……。巻き込まれただけなのに、私が頭を抱えることとなった。


お湯を沸かしにきただけなのに、バッドタイミングにもほどがある。電気ケトルはとっくの昔に仕事を終えてるよ。


「昔の横領のことですかぁ?」


「なっ!?」


「なんかぁ、そんな話聞きましたけどぉ、過去なんて気にしませんっ」


「……いやいや小早川さん。柴主任は無実だから、出所したみたいに言わないであげて」


「そうなんですねぇ」


やはり小早川さんは男前だった。それよりも、短期のバイトに話した奴は死んだらいい。


柴主任は言っていた。こういうことは、どうやっても付き纏うものだって。けど。


なんだかそんなの嫌だなあ。お腹の奥がぐるぐるとうねるけど、私が怒ることじゃない。今の任務を遂行しようと努めた。


「柴主任はね……マザコンで、ああ見えてねちねちしてて腹に悪魔をはびこらせている人だから、とりあえずやめとこう。うんっ」


と……これはただの悪口だ。先輩、私には荷が重かったですよ。


諦めませんっ、と返ってくるかと思えば、けれどそれはなく、小早川さんは何故か納得の表情をして頷いていた。先輩は、小早川さんを何故か抱きしめ、その顔色を白くさせ、私の背後を凝視している。


原因はすぐに判明し、私の喉は声なき悲鳴に揺れるのだった。


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