柴犬主任の可愛い人
聡いけど、やはり馬鹿な広瀬で良かった。
広瀬は、愛しい恋人のために自己を犠牲にし、私を狼から解放してくれた。
ちなみに、狼としたのは、案外すんなり広瀬との交代を認めてくれた柴主任が、最後まで自分はどちらだと問うものだから、好みのほうを選んでもらったから。その様子を広瀬は、珍しいものだというように盗み見ていた。そうだよね。ちょっとしつこかったよいつもより。それはプライベート仕様が顔を出してたからだよ。
「終わったら連絡するから待ってろって」
「うん。汐里に言っとく。ありがとう」
柴主任にもう一度頭を下げて、デスクの整理もそこそこに退勤処理を済ませた。
「隠れていても、その大きなお尻は飛び出しているわよ」
「っ!? ……確かに大きいがそこまでじゃないっ」
なかなか来ないエレベーターに飛び乗り、スピードは加速するはずはないけどその場で地団駄を踏んで一刻も早く下降しろと願った。いつもよりゆっくりだと感じた扉が目的の一階で開き、汐里が待っているカフェに向かったところ、何故か当人が店の外にいたものだから……心の準備をと、思わず近くの観葉植物を盾に隠れてしまったのだ。
確かに、名前を知らない観葉植物はすっきりした形だし私のお尻は小さくはないしぽちゃりとしてるのはそこだけじゃないっ。けど絶対にはみ出てたわけじゃないもんね。
葉っぱから顔を半分出して抗議する自分の姿は、そういえば給湯室での柴主任と同じことをしてると、なんだか気恥ずかしくなる。
おずおずと進み出て向かった先の親友、川崎汐里は、久しぶりに会っても相変わらず美人さんで、アイスブルーのロングコートを着こなす姿は、氷の女王様だった。
髪伸びたなあ。ストレートかけたんだ。汐里は少し癖っ毛で、いつも自分の髪に腹を立てていた。あれ? 背が伸びたのかと思ったらブーツのヒールが高いのね。よくそんなので歩けるわ。相変わらずぷるるんとした美味しそうな唇に泣きぼくろがそそる、仁王立ちがとてもよく似合う親友だ。