柴犬主任の可愛い人
ああ。そうか。もう次の人がいるんだね。
どこか冷めた頭が、そう呟いていた。
「青葉とのこと、相談してた会社の先輩で、もしかしたら青葉と時期がかぶってるかも」
汐里が大学の同期と連絡をとった際、遠慮がちに教えてくれた子がいたらしい。その子は元彼とのほうが仲が良く、なので自分からは連絡しずらかったのだそう。けれど、汐里と話しているうちに私の話題になり、隠しておけなくなった。
「そっ、か」
それを知っても、もう傷付く時期じゃなくなっていた私は、汐里のほうが腹を立てている状況に申し訳なく思う。
「ねえ、青葉。シバく? シバきに行っちゃう? そうしてもいいと思うんだけど」
「もういいよ。今更だし、向こうが悪いってだけで別れたんじゃないだろうし……まだ原因理解出来てないけど」
「だったらっ」
「でも、私それでいいって思ってるんだよね。結構白状じゃない? ……きっと、向こうのほうがたくさん、考えて悩んで、苦しんでたのかなって」
白黒つけないと治まらない汐里からしたら吐きそうに気持ち悪いかもだけど、私はもう本当に、言葉を悪くいえばどうでもよくて、凪いだ今を保ちたいのが本音だ。長い付き合いだったのに、私って最悪。
だから、もういいよ。
私の為に鼻を膨らませてくれる親友は、そんな顔であっても大層美人さんで、別れたときの詳細を話すと更に憤慨してたけど、振り上げた拳は下ろしてくれた。
「……でも、ばったり何処かであったら殴るかも」
「汐里、昔からなよなよしてるとこが腹立つって言ってたしね」
「そうだよ。やめとけって言っても青葉は付き合っちゃうしさ。……ほんと馬鹿」
「でも、付き合わきゃ良かった、とかはないから」
何杯めかの温くなったビールの最後の一口を飲み干した。