柴犬主任の可愛い人
 
 
もうそろそろ帰ろうかなとテーブルに置いてあったスマホに目をやると、そのタイミングで着信音が鳴る。画面に大きく相手の名前が表示されるやいなや、画面を隠すべく私は反射的にスマホを手のひらで覆った。


あまりにも勢いよく動いてしまった為テーブルごとスマホを叩くような行動をとってしまい、手のひらが痺れてじわりじわりと痛みの波が押しては引く。


「青葉……」


さすが長年の付き合いの汐里には、私の行動の理由が理解出来てしまったらしく、好奇心旺盛といった感じで見つめられてしまった。


「こっ、今度泊まりに来たときにでも~」


「……」


「最近出来た呑み仲間からなんだ。うっ、嘘じゃないからっ」


私の軽く焦る様子に悪いものではないと悟ってくれたのか、汐里からおいとまのお許しを得るとこに成功した。話しながら、その着信を拒否することにも成功。


「おい神田っ。泊まりってなんだ。汐里が行くなら俺も混ぜろ」


着信を拒否したあとには、その当人と他二人からもメッセージが次々と届き、それを確認しながら、どうやらゆっくりしている暇はない様子で。


広瀬は来るなり私をお邪魔もの扱いしてきたし、汐里とはまたすぐにゆっくり遊ぶ約束をしていたから、自分の分のお金だけ預け、絡む広瀬は無視して駅へと急ぐことにした。


今走れば急行に間に合うっ。




家路へと向かう電車で、私は留守電を再生する。情けない声でヘルプヘルプと訴えてくる声は、今日怒らせてしまった柴主任のもので、メッセージは、亮さんと華さんを含む三人からだった。


なんか……皆、狼がどうとか安否確認みたいなことを言ってる。残業を命じながらお怒りだった柴主任はなんだか情けない様子だったし。溜飲は下げていただけたんだろうか。


とりあえず急ぐに越したことはないと、私はぎりぎり急行に飛び乗れたのだった。


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