柴犬主任の可愛い人
「――青葉さん。僕ってやっぱり性格悪いですよね……」
改善します、と好物に誘き寄せられ私の左隣に座る柴主任は、実は相当気にしているようだった。枝豆を剥き剥き、けどそれは一向に食べられる気配がなく溜まってくいっぽうで、しまいには薄皮まで剥きだした。こうすると食感がもっと良くなるんですよって遠い目して言ってる……。
華さんと亮さんは、事のあらましを漸く理解しながら、けどそんなに悪いことをしたと思ってないらしく、閉店時間を迎えた伊呂波の締め作業にとりかかってしまった。
「そんなことないです。柴主任はとても頼りになる上司様ですよ~」
「“様”を付けられると、真実味は大幅に下降します」
わぁ……めんどくさい。
「宮原さんだって、青葉さんに激しく同意していたし」
宮原さんとは、給湯室で私をけしかけた先輩のことだ。
「あ、あれは……違います」
「違わないでしょう」
確かに、残業命令の独裁加減とかは文句もあるけど、給湯室のことに関しては悪いことしなたっていうのは多大にある。
枝豆の薄皮さえも全部剥き終わった柴主任は、今度は実を半分に割り始めた。その指は枝豆の水分でしっとりしていて、私のかさかさなそれよりも艶めいてる。三十を過ぎた男のそんな姿に哀しみを覚え、私は今日の給湯室での理由を白状した。
「だってしがない準会員なんですから、仕方ないじゃないですか……本会員である、しかも先輩に命じられたら断る術はないです」
「会員……?」
そうですと大きく頷きながら、これでなんとなく納得してくれないかぁ、と期待もしたけど、勿論なく。……ですよね。私だったら興味津々だ。
「柴主任を守る会、です」
会員証はないですけどね。そんな私の場を和ます努力の言葉など、誰も聞いちゃいなかった。