柴犬主任の可愛い人
「――だそうです。私が入社した頃、柴主任の事件のことを噂で知ったときの私の態度で合格と判断され……審査基準は未だ不明ですけど……情報網の一環としてスカウトされ、現在の準会員に至ります」
活動は、今回が初めてで、運悪くそれを柴主任に目撃されてしまったけど。
巻き込まれて準会員。巻き込まれた先の活動で失敗なんてついてないけど、まあ、全てを知った柴主任が怒ってないからとりあえずセーフ。
「改めて、大変でしたね」
「はははははー」
棒読みで笑う柴主任は、どうやら亮さんたちにまた怒られると萎縮しているみたいだった。この騒動に関しては秘密だったらしい。
「シバケン……」
「あっ、あれは向こうの両親と弁護士交えて話したら一気に終わったから大丈夫だったんだよ!! ……そういうのに、本人含め弱い家族だったからね」
「禿げたのか?」
「まさかっ。ふっさふさだろうっ!?」
柴主任と亮さんが言い合うのを横目に、華さんがそっと耳打ちしてくる。実は、ストーカーの件には亮さんも気付いていたらしい。そこまでだとは思っていなかったみたいだけど、当時、何度か伊呂波の付近で元婚約者を華さんが見かけ、それは柴主任が訪れているときだったそう。内密に怒鳴りに行ったこともあったらしい。
「心配はしてたけど、確かに柴くん、あの頃は色々言うの憚られる状態だったのよね」
「そう、ですか。そうですよね」
「でも、そんな守る会がいてくれるなんて……笑っちゃう」
涼しげな目元を細め、華さんは笑った。決して、当時は笑っていたわけじゃないのは私だって察する。
とりあえず、今皆が笑っていられて、笑っちゃうけど柴主任を守る会なんてものがまだあって、私はそこの半ば押し付けられた準会員で。
穏やかな今をこうして過ごせていることが、良かったと思う。