柴犬主任の可愛い人
――、
「けど……あれ? まだ、青葉さんが僕の悪口を言っていた理由が解明出来てない。活動の一環なんですよね」
「小早川さんが」
小早川さん? アルバイトの? とぼけた顔で訊ねてくる柴主任。ということは、どうやら小早川さんは、給湯室での出来事でターゲットを変更したんだと推測する。広瀬は小早川さんと今日会わなかったみたいだし、第三候補にでも行ったのかな。誰だろ。
「いえ。被害がないようならいいんです。とある人物から柴主任を守れとの任務の上での嘘でした。――これにて会員活動は終わりっ。申し訳ありませんでした」
「……」
「柴主任?」
よほど小早川さんのことが気になるのか、柴主任はどうにも納得のいってないといった様子で。ジト目だ。猜疑心の塊だっ。
「……青葉さんは、実は僕のことをいつもあんなふうに思ってたってことは……」
「っ、ないですったら!!」
そこからも柴主任は気にして気にして、どれだけ謝罪と弁解をしようにも、もう最後には拗ねていじけてどうしようもなくなってしまった。
「……そんな青葉さんには」
「どんな私ですかっ」
「今度ある忘年会で……」
忘年会とは社内のもので、世間一般では十二月の中旬までに済ませるところが多いと聞くけど、何故かうちは仕事納めの日の夜に毎年決められている。大酒呑みか多くて、これが一番いい日時なのだと習慣づいたのだそう。休日出勤者もそこそこいる会社だから。
今年は忘年会の翌日に実家に帰ることになっていて、私はかなり憂鬱だ。誘われたから二次会にも参加しなきゃいけないし。
「広瀬が言ってた腹芸は却下ですからね?」
「言いません。セクハラ、ダメ、ゼッタイ」
「……」
「帰り、タクシーで僕は帰ると決めてて、どこか解散場所から離れた場所で青葉さんを拾っていこうかなと提案する予定だったけどやめましたー」
はははと笑い飛ばされる提案。それはなんと魅力的なことかっ。
「会社では秘密の関係ですし、青葉さんも嫌がりますよね……残念ですが諦めます」
「……いかがわしい関係に聞こえるのでやめて下さい」
そこからは、とりあえず目一杯世話を焼かせていただいた。