柴犬主任の可愛い人
その柴主任の拗ねは年末まで続いた。
――……
けど、なんだかんだ言われながら、忘年会の帰り、提案通りに柴主任の乗ったタクシーに私は拾われる。皆より少し遠いところに住むものだから、終電ヤバかったんだよね。ありがたや。タクシー代もはんぶんこなら痛くはない。
いつもは二次会に参加しない柴主任が今回カラオケの席にいたのは、きっと伊呂波が今日お休みだからだな。あの人、けっこうな寂しがりやだと思う。
二次会には、何故かアルバイトを終了した小早川さんも相変わらず女子力高く座っていて、可愛い声でアイドルの歌を歌っていた。その存在から守る為か、柴主任と小早川さん双方の隣には、守る会の主要メンバーが陣取っていて……ちょっと引いた。柴主任の隣の会員は男性社員で、ちょっといかがわしかったよ。
「あ~面白かった」
そんな光景を、内情を全て知る私が楽しまないわけがない。帰りのタクシー内では、かなり酔ってたのもあって柴主任に絡む絡む。
「楽しんでもらえて何よりです」
「あっ、でも~、楽しんでるって思われてて良かったぁ。悪酔いから少し名誉挽回?」
「はいはいそうですね。けど、青葉さんの酔っ払いなど、もう何度も見てます」
「うっそだぁ。しかし、ならば、柴主任は~、仏のようなお心ですねっ」
仏様は、仏様も酔ってミスしてしまったのか、タクシーをお休みの伊呂波の前で止めてしまい、料金を払い降車してしまった。しまった寒いと嘆いていてまた面白い。
「亮ちゃん呼んで店開けさせたい……」
「それは無理でーす。風邪引かないで下さいね。それでは私はここで」
柴主任に敬礼するついでに視界に入った夜空は、オフィス街よりオリオン座がよく見える。そうだ沖縄のビールが呑みたいと、伊呂波の向かいにあるコンビニに足を向けた。
「駄目。青葉さんは呑み過ぎ」
けど、それは柴主任によって阻止されることとなる。タクシー代受け取ってもらえなかったし、柴主任のビールも買おうと思ってたのに。
「送っていきましょう」
無理矢理鞄を引かれ、離すことも出来ない私も引っ張られて、足は帰路へと向いてしまった。