柴犬主任の可愛い人
4・残響の君
 
 
 
 
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花粉症ってこんなに辛かったのか……。


四月一日。ある日突然にそれはやって来た!! どうやらコップに例えられる私の許容量が溢れた。周囲の花粉症の人が苦しみ始めた頃は大丈夫だったのに、朝起きたら突然で。


「神田、大丈夫か? アレルギーとかなかったら俺の薬飲んどけば」


「ありがと。お昼に買ってきた」


「それ効いてないんじゃね? もう五時だぞ。仕事終わりに元気になったらシバく」


「確かに」


「ま、初心者は辛いと思うが頑張れ」


珍しく私を思いやる隣のデスクの広瀬は花粉症では先輩だ。くしゃみと頭の芯がぼうっとするのを理解してくれ、優しくて気持ち悪い。周囲のあちらこちらでも半数近くの人からくしゃみの音がして、そこに現在日本の縮図を見る。


今日は出掛けに見るテレビの占いも最下位だったし、世の牡牛座の皆きっと何か不幸に遭っているのかと涙が止まらない。と、こんなに症状が出てても、私はまだ自分がそれだとは思いたくない。広瀬に言わせると、花粉症初年度の大半はそう思うのだそうで。


どうでもいいことばかり考えながらの仕事も定時近くで目処がつき、あとは電話を一件だけ。先日の店舗間の在庫移動による後処理と確認。パソコン上にある数字で普段は事足りるんだけど、大幅なときはたまに口頭でもそれをする。破損品まで数に入っていたことが以前はあったしね。




諸々の雑務も終わって帰ろうとしたところ、隣の広瀬から呑みに誘われた。


「……今日の私の状態見てそれを言うか、広瀬」


「同時に上がるの珍しいし、汐里を連れてったとこ俺も連れてけ。マジ旨かったって、汐里が」


「げっ……ヤだ」


「神田んちの近くらしいけど、遠くても気にしないぞ?」


「マジで嫌だ」


断固断る私に駄々を捏ねる広瀬。最近広瀬からは呑みに行こうの声がよくかかる。汐里の相談でもあるんだろうか。だが嫌だ。断固拒否。


汐里をこの前連れてったのは、伊呂波だから。


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