柴犬主任の可愛い人
「プロポーズを待ってるはずだって、周りからもずっと言われてて……」
「私、急かしちゃってたかな……」
「っ、そんなことはっ」
あるんだろう……。
私以外にも、二人を知る周囲も、同じだったのかもしれない。純弥がこんなふうに言うならそうなんだろう。
「もう付き合って何年だ?」「そろそろ――」「彼女だって待っている」「ほら周りを見てみろお前たちのようなやつを」「結婚しないの? なら彼女がかわいそうだ」
「……」
何がわかるお前たちに!! ……なんて言えるほど、無欲でもなかったな。私。
いつかは、とは想像してた純弥との未来。人の機微に敏感な純弥は、きっと私のそれも知っていて。周囲の声に押し潰されたのかもしれない。
「でもっ、青葉との結婚が嫌だったわけじゃ!!」
「……うん」
こういう話を、延ばし延ばしにしていたのは私たちだ。けど、冷静な脳がいてくれもする今、今で良かったとも思う。
「けど……青葉の笑顔を見る度に不安になった」
「なっ、んで」
「……結婚の話をする青葉、そういう雑誌を読む青葉、家の話、手続きの話……全部、話すときの青葉は俺のこと見ないまま、幸せそうだった……」
結婚があれば、自分は要らないんじゃないか。自分でなくとも結婚出来れば誰だっていいんじゃないか? いくら打ち消しても、それは自分のどこかかから囁かれて。
ああ……そんな台詞、最近のテレビドラマであったなあ。
そんなありふれたようなものに、私は足をとられていたのか。純弥は、私をそんなありふれた中に、当てはめたんだ。
……私が純弥を、引きずりこんたんだのかな。
純弥は、分厚い結婚情報誌のページを捲る私の後ろで泣いたのだそう。
私は……そんなこと知らない。
独りよがりだった当時の自分を殴れるもんなら殴りたかった。
「そっか……。そうだよね。疑っちゃうよね」
「……」
「……けど、私は、純弥だから、プロポーズも結婚もその為の準備も、嬉しかったんだよ」