柴犬主任の可愛い人
 
 
「彼女のお腹が膨らんでいくにつれ……俺は、青葉に思ったことと同じことを、彼女に対しても思ったんだ」


「……」


純弥は……、そうして合間合間に、私への謝罪も紡ぐ。




彼女の妊娠がわかり、結婚を決めた。


会社の先輩だった彼女は悪阻が酷く、臨月近くまで仕事を続けるのを断念し、新しく借りた純弥と子どもとの新居で日々を静かに過ごしていたらしい。


確かに幸せな日々だったのだ。


でもある日、恐れていた感情が訪れる。もしかしたら彼女は、子どもや結婚は望んだけれど、純弥でなくてもよかったのではないかと。


だって、彼女がお腹に語りかける時間は日々次第に長くなり、まるで純弥がいなくても構わないように感じてしまった。


「……馬鹿、みたい。それじゃあ私のときと同じじゃない」


「……そうだよ。俺は最低だよ。……でも、今度はちゃんと話し合って」


純弥は、彼女と話した。もう同じ鉄は二度と踏まないと。


どろどろした話もたくさんしたという。お互い涙をたくさん流し、家の中は散々な状況がずいぶん続いた。


そんなこと、妊婦の身体には当然よくない。元々悪かった彼女の体調は下降線をたどり、救急車を呼んだときには、母子共に危険な状態にまで陥ってしまっていた。


「病院のベッドで絶対安静になりながら、それでも彼女は、彼女を疑う俺を掴み続けた。子どもも俺も、大切だから絶対に離さないって。……そこまでいかなきゃ、俺は信じられなかった。けど……」


「……」


「俺は……俺がおかしかったから青葉を……青葉を疑わなきゃ……俺は、青葉と今頃……」


「そんなの今更っ」


「けど考えずにはいられないんだっ。青葉に酷いことした。どうやったら償えるんだろうって……そしたら彼女が……」


「っ!?」


「青葉に、会ってきたらいいって」


…………、


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