柴犬主任の可愛い人
私に会ってきたらいい。純弥の気持ちが穏やかになれるなら。私がまだ純弥を想っていたとしたら、私がまだ純弥といることを望んでいたら、それが償いになるんだとしたら……
「……俺のしたいようにすればいいって」
「な……に、それ……」
「青葉とのこと相談されてるときに、もっとちゃんと話せって言わなかったのは、卑怯だった、って。だから自業自得だって……」
「純弥は、それで、ここに来たの?」
おでこを更に擦り付けられて頷かれる。
「青葉ぁ……俺、どうしたらいい……?」
もうどうにもならないことを、純弥は解っていないのか見えていないのか。
けれども一番困るのは……そこに、純弥の意思が見えない。
顔を上げられないのは、罪悪感くらいはもっているんだろう。誰かが泣く恋愛を積み上げてしまったから。誠実でいたいとしていた人だ。
でも、そこに純弥がどうしたいかが見えない。
彼女が、私が、望むことでしか選べない純弥は、まあ自分は最低なやつだから微塵も信用出来ないという思考に行き着いたとかもあるんだろうけど。
冷めた頭の部分が分析をする。それでも、純弥を悪い人間だと思えない私は馬鹿なのかもしれない。
私は今もやっぱり、純弥の辛い悲しい顔は見たくないんだと、こうして会ってわかった。馬鹿だな。
「純弥は……私が結婚してって言ったら、するの? 彼女も子どもも捨てて」
「っ、それは……っ、」
「彼女がそれが一番いいって言ったら、するんだよね」
「……」
「覚悟は、あるの?」
一瞬、息を呑む音が純弥の喉から響く。
そうして、か細い声の決心が聞かれた。
「……………………、ある」
呆然とする私は、いつしか純弥のほうからも上半身を乗り出し、こっちに近付づいてくるのに気づかなかった。
青葉、と名前を呼ばれる頃には、純弥は私を机越しに恐る恐る、抱きしめようとしていた。