柴犬主任の可愛い人
「純弥っ、イヤっ!!」
「青……っ」
その瞬間、襖がすぱんと勢いよく開いたかと思ったら、柴主任がいて――
えっ、なんで!? そりゃ今日は来ないとか聞いてないけどなんでっ!?
「ちょっと待ったぁっ!!」
なんで柴主任こっち来るのっ?
訳がわからず驚き固まる個室内の二人の人間をよそに、俊敏な動作で近付いてくる。
「青葉さんっ」
純弥を避けるために無理に捻っていた身体は柴主任にやんわりたと包まれ、純弥に掴まれていた手は柴主任の強い力によって引き剥がされ、私は乗り出した上半身を後退させられながら、肩をむんずと掴まれて、最初に向かい合って座っていた座布団の上にぽすんと置かれる。
「大丈夫ですか?」
なんだろう。その、労ってくれるみたいな声に、緩んだ心が泣きそうになる。
余計なことをしましたか? 小さく、私だけに響くトーンで訊かれ、柴主任に抱え込まれるその近い距離、話した際の吐息が耳にかかる。その刺激から逃れようとすれば、そこは柴主任の胸の中で、何故か破裂しそうなくらいに心臓は早鐘を打っていた。
こんなこと……まるで甘えているみたいだと、流石に恥ずかしくてパニックだ。
ふるふるとそこで首を振れば、行動は糖度を増した気がする……。
私の返事にほっとしたのか、私を包む腕の力を若干弱めてくれた柴主任。でも解放してくれずにいるから見上げてみたところ、綺麗な顎のラインがまず視界に入った。
続いて、そこにあったのは、純弥のことをきつく睨みつける目。表情。
「――生憎、青葉さんはもう僕のものなので、お引き取り願えますか?」
「な……っ!!」
否定しようと暴れ出した私を抵抗力ゼロにするためか、再び腕の力を入れられる。
僅かに聞こえる外界の声と、もう視界は完全に遮断された。寸前に見えた純弥はとても驚いていて、とても、傷ついていて。
そんな純弥を見てしまい、冷めた頭が分析しても、いっときの感情に支配されても、もうどちらにしても、腹が立つことしか出来なかった。