柴犬主任の可愛い人

 
だらだら……。


「まあ、広瀬くんもかわいそうですけど。愛しの彼女と青葉さんが除け者にしてくるって嘆いてました」


「だって邪魔なんですもん。汐里は私の親友ですしね。伊呂波に連れてきたい人は今のところ汐里だけかな。あんな美人いたら、柴主任だらだら出来ないでしょうけど」


「とりあえず先日は他人のふりをしておきましたけどね――別にそんなことはないですよ」


この前汐里が泊まりに来て、夕御飯は伊呂波に連れていった。一応、柴主任に伝えておいたのだ。時間を合わせるみたいに来たと思ったら、何故か常連客の、お互いに顔を知る他人を装われたけど……。私もそれに乗っかったけど。


そういえば、柴主任は友達を連れてきたことがない。亮さん華さんだけかと哀れんでみれば、他は遠方なのだそうだ。確かに地元じゃないしね。亮さんが親の転勤で引っ越した先が、偶然にも柴主任の大学と就職先に近い場所だったらしい。


「青葉さんにそんなこと心配されるなんて……」


「すみませんってば」


「ただ僕はだらだらしたいだけなのに……青葉さんだって同じようなものなのに同類扱いしてもらえない……おじさんだからですか?」


「っ、…………おじさんではないですけど。すみません。ビールでも御馳走しますから許して下さい」


いじけた柴主任の背中を一度押し、伊呂波の中へ促す。




何故か、私はそこから、少しだけ、柴主任に上手く相槌を打てなくなってしまった。


伊呂波に戻り、大層心配してくれていた亮さんと華さんに謝り安心してもらっても、柴主任がいつもみたいにだらだらどうでもいいことを面白おかしく話していても、小骨が喉に刺さっているみたいな小さなわだかまりが片隅に鎮座していて……。


家に残された大量のおでんを憂いてのことじゃない。


さっきまでの、純弥とのことでもない。それはそれでもう消化器官のどこかにいる。


原因なんて、わかってるけど。


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