柴犬主任の可愛い人
――……
次に意識を取り戻したのは、病院のベッドの上だった。
ここがどこの病院だとか何科とかは不明だけど、病院ということだけは理解する。頭上には用途のわからないコードが伸びていたり、器具がコンセントに差さっていたり。窓側の左手の甲には点滴の針が突き刺してある。
寝たままあたりを確認すれば、ここはどうやら個室みたいだった。
「ぃっ!!」
起き上がろうしたら下腹部に激痛が走ってあえなくベッドに仰向け逆戻り。
今は何時で、何日なんだろ。
熱はあるけど、あの壮絶な辛さはなくなっていた。絶対に充分な睡眠はとったはずなのに冴えない頭で、この状況は自分で病院にかけこんだのか救急車を呼んだのか、それか……夢うつつだっことが現実か……。
そんなことにぐるぐる思考を巡らせてるうちに、全てを知る人物は現れる。私がまだ寝ているだろうと気遣うように開く病室の引き戸は、そんなことしなくたって静かなのに。
「おはようございます」
「……はよ……ございます……っ」
「痛むでしょう。どうか寝たままで」
やはり夢うつつは現実のほうだった。決して夢のほうじゃなく。
病室に入ってきたのは柴主任で、片手には水やお茶のペットボトル、もう片方にはタオルが何枚か入ったビニール袋を、それぞれ両手に下げていた。
入っていいですかと、もうそうしているのに柴主任は私に入室許可をとり、窓際にあるらしい備え付けの冷蔵庫にペットボトル数本、こちらも窓際、私の頭上左横にあったクローゼットの棚部分にタオルを仕舞ってくれる。そうしてから、近くにあった椅子をベッド近くに引き寄せ、ようやく座った。
「……ご迷惑おかけしました。本当にすみません」
「ご近所のよしみです。倒れて破裂される前に連絡してくれて良かった」
「破裂……?」
破裂とはなんぞや――そんな怪人の最期みたいなこと自分に起こるわけない。ただの比喩表現かなと柴主任を見てみれば、その口調こそいつも通りだったけど、顔はそこそこ怒っていた。
「盲腸、ですよ」
何故ここまで放置していたのかと、呆れられた。