柴犬主任の可愛い人
 
 
「緊急手術になりました」


ゴールデンウィーク初日の夜、その日は自宅マンションでごろごろしていた柴主任は、私からの着信に大層驚いたそう。


だよね。正直、私から連絡したことってあったっけかという、定かじゃい記憶。必要なかったし。


死にそうな声でヘルプ要請されるものだから、私は家だということを聞き出すと同時に駆けつけてくれた。


「玄関の鍵は開いてるし、青葉さんは扉に凭れて倒れているから外に転がってくるわ……意識なくなりそうなのに友達に連絡しようとするし大変でしたよ」


柴主任はその場で救急車を呼んでくれ、同乗もしていただいたそうで……。


自業自得だと絶対に怒られるから、実は盲腸は昔から体内に抱えていて、手術が嫌だから、痛くなると薬でまぎらわせてたということは秘密にしておこう。そうしよう。つい最近、心身の健康自慢をしたばかりだし。


「……申し訳ありませんでした」


「もっと早くに連絡しなかったことへの謝罪なら、受けとりますよ。おそらく一日我慢していたんでしょう……?」


ぺちりと、おでこに冷たい感触がしたと思えば、それは私のスマホだった。起き上がっては駄目ですよと注意されてから渡され、操作する。


「えっ、十六時っ!?」


日付は翌日となっていた。まだ二十四時間は経ってなかったとしても、そこまでの記憶一切なしに戸惑う。


「っ、汐里に連絡しなきゃっ!!」


着信履歴を確認してみると、今日の待ち合わせ時間三十分後から定期的に汐里の名前が連なっていて、メッセージも折り重なっていた。怒りから始まり、のちに心配へと変わっていて……。


慌ててその場で電話しようとしたら、スマホは手から抜け、取り上げられてしまう。


「病室で電話はいけません。……まったく……意識があってもなくてもやることは同じですね。大丈夫ですよ。市ノ瀬さんという方から電話が何度もあったので、恐縮ですが事情を説明しておきました。その人が汐里さんですよね」


「っ、そう、です」


「非常事態とはいえ、勝手をしてすみません」


「……いいえ。お手数おかけしました」


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