特ダネには真実を
今から16年前、県議会議員である莪椡渠瑛(ガクヌギ ミゾテル)39歳とその妻、莪椡稽滸(ガクヌギ ケイコ)35歳が自宅で死亡しているのが見付かった。



死因は、鋭利な刃物で刺されたことによる失血死。


渠瑛の腹に両手で握り締めた状態の包丁が刺さっており、それが稽滸の傷口の形状と一致。

政務活動費の横領の噂もあったことから、渠瑛が妻と共に心中を図ったと警察は結論付けた。


結局、横領の件は渠瑛が死亡したことで、うやむやになり自然消滅した。



「そういえば、発見したのって子供と運転手よね?うちはあんまり報道してなかったけど、その辺は?」


「取材しようと思ったけど、他がわんさかいてな。当時の俺には。」


「確かに、横領疑惑の方ばっかりだったわね。」



囃噺と啄梔は知らないから言えるが、当時の現場を知る秀滝にとって横領疑惑以外は書けなかった。


いや、書きたくなかった。

だから、必死に横領疑惑を追っていた。



両親を失い、慕っていた夫婦を失い。

あんな状態の2人に、取材やマイクを向けること、張り付くこと。


記者としては失格かも知れないが、秀滝には出来なかったのだ。
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