終われないから始められない


「え?」

「寝てると思って、ギュッとして、首にキスしただろ。それ…ヤバいって」

「あ、もう。弘人…。
ヤバいヤバい、言い過ぎだから。
芸人さんみたいって、突っ込みたくなるじゃない…、確かに、ちょっと首にしたけど」

「もうヤバいんだって…」

あっという間に押さえ込まれていて、上から弘人が見下ろしていた。

「祐希、…いいか?
俺…もう、祐希が欲しいんだけど。欲しくて堪らないんだ」

切なげな表情で弘人が頬に手を当てる。
初めて見る…、こんな表情の弘人…。

コクんと頷く。

何だか突然バクバクし始める。

ゆっくり近づいてくる…、弘人の顔を両手で挟んで止める。

「…待って!」

「待てない…無理だ」

更に近付けようと力を入れてくる。
挟む手がプルプルする。

も〜ダメ、力で負けそう。

「待って、待ってー」

「待、た、な、い」

「お願い、そこの明かり、消して?」

「んもぉーー。これか?これ消すのか?
真っ暗になって、なんにも見えなくなるぞ?」

部屋はベッドの小さな明かりで照らされているだけだった。

「…うん、恥ずかしいから消して欲しい」

「解った…、もう、しようがないなぁ…」

パチッ、音がした。消えた。
ん?うっすら明るいような…。

閉め切っていなかったカーテンの隙間から、朧げな明かりが差し込んでいた。

額にかかる私の前髪を、そっと流すように弘人が触れる。

「…今晩は満月だからな。こんくらいの明るさは許せよ?…大丈夫だ」

両手で顔を包むように触れてくる。

弘人…。

「無理はしない。なるべくゆっくり…大事にする…」

ん、んっ…、唇を優しく何度も食み、耳、首筋に…、鎖骨へと唇が移動していく。
ハァ…もう、これだけで蕩けてしまいそう…。

「弘人…」

嬉しいけど、解らないからどこか恐い。

「恐く無いから…祐希、…その顔、…あんまり煽るな……。そんな顔、誰にも絶対見せるなよ?」


ギュッと弘人にしがみついた。

「…痛く無いか?大丈夫か?」

「ゔ、弘人ぉ…、ちょびっと…痛いー。…でも…大丈夫…」

「…フ。…なんだよ、その言い方。…可愛いヤツだな…」


今夜私は大人になった。

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