終われないから始められない
突然
夏のボーナス。
初めて受け取る。
明細だけ先に受け取る。明日か、何だか実感も無い。
「おかえり」
何だろう、煮物の匂いか。
当たり前のように部屋に出入りする。
鍵を持っているから仕方ないか。
来る時は必ず連絡がある。せめてもの救いか?
未成年の私は、アパートの賃貸契約すら出来なかった。親が鍵を持つのも仕方ない。
「また少し都合つけて欲しいんだけどね」
解ってる、言われなくても。それ以外に私に用は無い。
毎月決まったようにやって来る。
まるで受け取るのが当たり前のように。
「お母さんさー、思うように働け無くて。
しんどいんよ。ごめんね、祐希。
あ、これ食べて。
タッパーは、また来た時に持って帰るから」
思うように働けないって、なんだろう…体が辛いんじゃなくて、気持ちの問題なのか…。
いつものように受け取ると、中身を確認していそいそと帰って行く。
あんな風な態度で無心して来なければ、社会人になったんだから、私から家にお金を入れるのに。
こんな感じでズッと続くのかと思うとなんだか気が晴れない。
誕生日だと言うのに、相変わらず言葉は何一つ無かったな。
「祐希?鍵開いてるし。
危ないじゃないかっ、て、侵入してる俺が一番危険人物だってな。
…おい、…どうした?
マジでなんかあったか?」
「弘人…」
腕を伸ばして弘人にしがみついた。
頭を撫でながらタッパーに弘人が気がついた。
「お袋さんか、また来たのか?」
頷く。
「祐希?予約。時間に間に合わなくなるぞー。
急げ急げ。ほら、オシャレして出かける約束だろ?
メシ、食いに行くぞー。
ほらほら、顔、直して、着替えて来いよ、な?」
「う…、弘人…。うん」
「十代最後の誕生日だ、な?」
少し緊張するくらいのお店だった。
きっと弘人も得意じゃないはず。
どんな気持ちで予約してくれたのか、よく解るから凄く嬉しかった。