終われないから始められない
「俺さー、勝手に思ってるだけなんだけど。
19日が祐希の誕生日。俺は21日じゃん?
だから、来年、20日に籍入れよう。
祐希も俺も同い年の20日の日に」
「…ちょっと待って」
「うちの親は大歓迎だって。祐希のこと大好きだからな。
俺なんかには勿体ないってさ。
…式は俺達二人だけであげたっていい。
な、祐希、そうしよう?
アパートだって、どこか知られて無いとこに移ればいいし。
気になるなら祐希からっていう形で、実家に金を入れればいいんじゃないの?
そうすれば、無心されてるのとは違うからすっきり出来るんだろ?祐希の心が楽になるんだろ?
結婚は決定事項。俺、決めたからな。
ノーは無しだ」
「弘人…」
翌年、3月。決算月。
世の中の企業も忙しいが、私達も忙しい。
「祐希、ちょっと」
「はい」
窓口が開いている時は当然お客様がいらっしゃるので下の名前で呼んだりしない。
今は3時を過ぎている。
シャッターは降りているし、事務処理を待っていた最後のお客様も帰られた。
代理さんに呼ばれた。
「頼みがある。何も悪いことを頼む訳じゃない。この書類に支店長の捺印が欲しいんだ。
祐希も知ってるように、俺も嫌ってるが、支店長も俺を嫌ってる。
お互い相性が悪いんだろうな。
支店長は祐希が頼めばニコニコ押してくれる。
な、頼む」
手を合わせ、拝まれてしまった。
「解りました。でも、急ぎの未決に入れて置けば済むことじゃないんですか?」
「いや、俺の担当印を見たら、アレはわざとだな、なかなか押さないんだよ」
「そうなんですか。
解りました。行って来ます」
「頼むぞ。期限がせまってるんだ」
私は支店長の所へ行き、ただお願いしますとだけ言い、書類を渡す。
「おお、祐希君」
何故だか支店長まで下の名前で呼ぶ。
「すぐ目を通すから待っていなさい」
ペラペラと結構な量の書類をめくっていく。
「よし。OK」
ファイルに挟み込まれ返された。
「有り難うごさいました。失礼します」
代理さんに書類を渡す。
「何も言われなかったか?」
「はい、何も」
「祐希は信用があるからな。とにかく有り難う。助かったよ。
このお礼は…」
「いえ。仕事ですから、気になさらないでください」
「そうか、解った、有り難う。済まなかったな」
関係の無いいざこざに巻き込まないで欲しい。貸しも借りも無い。お礼されるのは可笑しい。
仕事なんだから。