終われないから始められない
今日はかなり遅くなった。
31日だから仕方ない。
夜食にと、支店長が鍋焼きうどんの出前を取ってくれた。
大振りの海老の天ぷらが凄く美味しい。勿論うどんも美味しく頂いた。
金曜日で3月の月末なんて。
忙しいなんてもんじゃない。
確か去年は週末に重ならなかったから、これ程じゃなかったと、研修期間中の事を思い出してみた。
懐かしい。
忙しさの中身なんて、意味さえ解って無かった頃。
少しは進歩出来てるのかな。
車屋さんも忙しい。登録が増えるらしい。
弘人も疲れが溜まって来てるようだし。
休みが取れるといいんだけど。
暫く働き詰めだ。
今日も遅くなると言っていた。
携帯を鳴らしてみる。
ワンコールして直ぐに切る。
折り返しワン切りがあったら忙しい合図。
私達の中で決めている。
どんなに忙しくても必ず何かしら返ってくる。
…大分待ったが、何も無い。
こんな事今まで無かったのに。
余程忙しいんだな。
タイミングもある。
いつもいつも、上手く手が空くとは限らない。
軽視していた。
ブルブルと携帯が震えた。
弘人!
違う。
<直子さん>の表示。弘人のお母さんだ。
「もしもし今晩は、おばさん?聞いてくださいよ、弘人ってもしかしてお家で寝てないですか?
約束忘れて帰っちゃったのかな。
私携帯鳴らしたのに返して来ないんですよ」
「あのね、祐希ちゃん。落ち着いて聞いて」
電話の声はおじさんだった。
「おじさん?大丈夫、そんなに怒ってる訳じゃないですから、弘人が…」
「弘人が、今、息を引き取ったんだ」
?ナニヲイッテイルンダ。
「…またまたぁ。
寝てるって事ですか?
だったら起こしてもらっていいですか?」
「…祐希ちゃん。いいかい、しっかり聞きなさい」
おじさんの声は低く、そして落ち着いていた。
「弘人は、もう起きないんだ。
いいかい、落ち着いて聞いて欲しい。
祐希ちゃん?…弘人は死んだんだ、交通事故に遭ってね。
おじさんもおばさんも、今、救急病院に居る。
病院の場所は解るね?直ぐ来れるかい?」
「…ジコ…ッテ…ナニ……」
「祐希ちゃん?祐…」
プープープー…。
「弘人…弘人?弘人…」
身体が震える。
通りに出た。
タクシーをつかまえて救急病院と告げる。
ヒロト、ヒロト、ヒロト、可笑しくなるほど弘人の名前を呼び続けていた。
タクシーの運転手さんが、お客さん、大丈夫かい?と声を掛けてくれたらしいが、私はヒロト、ヒロトと呟き続けていたらしい。