終われないから始められない


二人になってから、緊張するのではと心配したが、目まぐるしく変わる橘さんの飽きない話題に、私はただ引き付けられていたのかも知れない。

流石、日頃から鍛えられている、とても話し上手だ。

変な自慢もせず、極々自然と他愛ないことで笑い合えた。

あっという間に時間は過ぎた。


「無理にとは言いません。
また会いたいのですが駄目ですか?」

店を出て今は歩いている。

どうやら、お互い、住んでいるところは近いようだ。

橘さんのストレートな物言いがなんだか潔いと思った。

「そうですね、仕事のお話ももっとうかがいたいです。私で良ければ」

自然に連絡先を交換した。
何故だろう。

初対面なのに違和感が無い居心地の良さがある。

橘さんの内面からくるモノなのだろうか。


「私こっちなんです」

「俺はこっちなんで」

交差点でお互いの帰る方を同時に指差す。

真逆の方向に別れて帰る事になるようだ。

「プッ」

「クスッ」

互いに笑みが零れた。


「じゃ」

「はい、おやすみなさい、楽しかったです」

「おやすみ、連絡します」

反対方向へ歩み出す。

祐希のコツコツと小さくなって行く靴音に、振り返った橘は囁いた。


「ずっと好きだったんだ…」

< 29 / 37 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop