終われないから始められない
二人になってから、緊張するのではと心配したが、目まぐるしく変わる橘さんの飽きない話題に、私はただ引き付けられていたのかも知れない。
流石、日頃から鍛えられている、とても話し上手だ。
変な自慢もせず、極々自然と他愛ないことで笑い合えた。
あっという間に時間は過ぎた。
「無理にとは言いません。
また会いたいのですが駄目ですか?」
店を出て今は歩いている。
どうやら、お互い、住んでいるところは近いようだ。
橘さんのストレートな物言いがなんだか潔いと思った。
「そうですね、仕事のお話ももっとうかがいたいです。私で良ければ」
自然に連絡先を交換した。
何故だろう。
初対面なのに違和感が無い居心地の良さがある。
橘さんの内面からくるモノなのだろうか。
「私こっちなんです」
「俺はこっちなんで」
交差点でお互いの帰る方を同時に指差す。
真逆の方向に別れて帰る事になるようだ。
「プッ」
「クスッ」
互いに笑みが零れた。
「じゃ」
「はい、おやすみなさい、楽しかったです」
「おやすみ、連絡します」
反対方向へ歩み出す。
祐希のコツコツと小さくなって行く靴音に、振り返った橘は囁いた。
「ずっと好きだったんだ…」