終われないから始められない


「…俺はね、内田君に会う前から君の事は知っていた。

居酒屋でも話したけど、直接の面識は無くても俺の中ではずっと存在してたんだ。
それに君の事は内田君から沢山話を聞いていた。
内緒って約束だったけど…、チラッとだけだって写真、見せてくれた。

…会って驚いたよ。
想像通りの人だって。

みんなの言う噂は過剰評価でも無かった。
そのまんまの人だった。

…随分辛い思いをしたね。
いや、辛いなんてもんじゃない。
俺なんかが、易々、語ってはいけない…」


弘人と橘さんは知り合いだった。

「あの雨の日…」

「えっ」

「覚えてる?いきなり降り出した大雨の日。

俺は覚えているよ?
祐希は知らないだろうけど、俺はあのあと、戻って来たんだ。

祐希、雨宿りしてた。…雨があがってもまだ居た。

俺はズッと建物の影から祐希を見ていた。
こんなの軽いストーカーだよな、ごめん。
でも気になったんだ。
ちゃんと家に帰るかどうか。
もしかして、様子からして妙な気を起こすんじゃないかって。

あの店はね、俺も寄るんだ時々。肉団子が美味くて、たまに買うんだよ。

おばちゃんは人がいいから、何も知らないと思って、俺に祐希の事、話すんだよ。
こっちから聞いても無いのに」

あの日、弘人の香りがして…追いつけ無くて、…追うこと諦めたのに。

「あの子ね、最近は大分元気になったけど、外から心は解らないわ。

楽しくて仕様がなくて、あんなに笑って…幸せのど真ん中に居たのに。
こんな事ってあるのかしらね。誰も悪くないわ…。
神様も随分辛い試練をあたえるモノよね…。
おばちゃん、神様大嫌いになっちゃったのよ。
酷いわ…てね。

俺は店を出て走った。

祐希の後ろ姿は直ぐに見つけられた。

部屋に入って、明かりが点くまで見届けてから帰ったんだ」

< 34 / 37 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop