終われないから始められない
あれから私は、元のように通常勤務についている。
アパートには時々おじさん、おばさんが遊びに来てくれる。
おばさんは手作りのチーズケーキをいつも持参してくれる。
「祐希ちゃんタルトも好きなのよね」
「えっ」
「あの子、弘人が教えてくれたのよ」
写真立ての中、笑ってる弘人を見る。
「あ、お店でガツガツ食べてたって言ったんでしょ?もー、やだな…」
「ううん、ちょっと違うわ。
何でも美味しそうに食べるし、見てると幸せな気持ちになるって、言ってた。
奢りがいがあるって」
「もー、やっぱり恥ずかしい」
「今度はタルト、頑張ってみるわね」
お昼過ぎ、おばさん達は帰っていった。
夕飯をうちでって誘ってくれたけど、いつもいつも甘える訳にはいかない。
だけど…。
ピンポン。
「祐希ー」
一緒に夕飯を食べようと、橘さんが食材を持ち込んできた。
「今日は何作ります?」
「そうだな、肉団子」
「ケチャップ風味!」
「そのつもり。おばちゃんからタレのレシピ貰ってきたからバッチリ」
「楽しみですね」
「あとは簡単にスープとポテトサラダにするか」
「橘さん、女子力高くないですか?なんだか、焦ります」
「まー、祐希より6年先輩だからな。年の功?」
「んー、それはあんまり関係無いような…」
橘さんは今はこれで良いと言う。
変に答えを探さなくていいと言う。
弘人のモノは、何一つ処分していない。
私の中には、きっとずっと弘人が居る。
それでいいって言ってくれる。
一生このままでもいいって言う。
俺は何も変わらない。
祐希が好きだ。
ただ逢いたいから逢いにくる。
一緒に飯が食いたいからくる。
祐希の少しでも笑った顔が見たいから。
祐希が生きていてくれるなら、それだけでいい。
ただ好きなだけなんだ。
“約束"する。
弘人と一緒にお前をずっと守るからな。
−完−