終われないから始められない
弘人でいっぱい
高校3年生の私は、進学する事を諦めていた。
就職指導の先生の薦めで、銀行の面接を受ける事になった。
今、その先生に呼ばれていた。
「まず、お前なら間違いない。大丈夫だ。
校長が直々に面接の練習をしようって言って来たらしいな。
お前は成績も良いし、てっきり進学するもんだと思ってたけどな。推薦もあっただろ」
「はい、私もそのつもりで、進学して教師になるつもりでしたが、…残念ながら親がそうはさせてくれませんでしたので」
「ん、まあ、家庭のことだからな。
今更もう深くは聞くまい」
「…はい」
「校長が喜ぶから、緊張に慣れるつもりで校長室ノックして来い」
「クスクス。はい、解りました。
では、ちょっと行ってきます」
あっという間に試験日当日は来た。
各校、数人で面接を受けた。作文もあった。
指定された店舗での面接だった。一階では通常業務が行われていた。
…私もこの制服を着て、仕事を出来るようになれるかな。まだ社会人というモノが漠然としていた。
私は大嫌いな母親と、一緒に受けるもう一組の親子、別の科の子と居た。
面接は特に緊張する事もなく、部活での事など、聞かれた事に淀みなく答えられたと思う。
面接日からどれくらい経っただろう。
「祐希、バッチリだぞ」
先生から結果を聞かされた。決まった。
私も、もう一人の子も採用される事になった。
卒業した翌日から研修が始まる予定だ。
4月から正式な銀行員だ。
「弘人。合格、合格したよ」
「そうか、やったな。
後は、学校行っても、もう遊んでるようなもんだな。
まあ、品行方正にしてなくちゃ駄目だけどな」
「…うん」
「んー、俺、今日はちょっと早めに終われそうだから、あー、いや、やっぱ明日の方がいいか。
明日、逢えるか?」
「うん!」
「よし。じゃあ、朝また連絡するから、じゃあな」
「うん、バイバイ、明日ね」