終われないから始められない
17歳の誕生日。
「祐希、俺ん家来るか?」
弘人が電話をくれた。
今日は、日曜。
私の特別な日は、うちでは何でも無い普通の日だった…。
「…うん」
ピンポン。
「おー、来たか。まっ、上がれ」
「うん、おじゃましま〜す。
あ、これ。まだ2日早いけどプレゼント。
まだ開けないでよ。明後日開けて見てね。
あれ、おばさん達は?」
「サンキュー。
いねーよ。買い物行って来るってさ、親父と。
何気にラブラブアピールしてて、キモいんだけど。
おー、祐希来るって言ったら、ほら、これ」
「うわっ、チーズケーキ」
「あと…、これ」
可愛くラッピングされた小さい箱を差し出す。
フフ。きっと耳赤くして、ラッピングお願いしたんだろうな。
「言っとくけど、お揃いとかじゃないからな。
俺そんなの好きじゃないから」
開けてもいいか聞いて、丁寧に解いていくと、私の大好きなキャラクターの超豪華版。
キラキラ仕様のストラップだった。
「キャー、可愛すぎるー。有難う、弘人」
「おお…気に入ったんなら良かった。
お袋さー、祐希の事、自分の娘みたいにベタ惚れなんだよな。
今日だって何だか張り切ってさ。
チーズケーキ、まだ、あったかいだろ?」
「うん」
「冷やした方が美味いらしいから、冷蔵庫入れとくぞ?」
「うん、私チーズケーキ大好きなんだ。嬉しい!
」
「俺の次にだろ?」
「えーーっ。…比べられないよ。
弘人は食べ物じゃないし…」
急に何言ってるのよ。
「ハハ。真面目に答えんなよ。…んじゃ、食ってみるか?」
「はぁーっ?えー、何言ってんの?
今日の弘人、変だよ?
食べて見るかなんて、い、意味が解んないし…」
…変な沈黙が漂って、困って俯いた。
もう、弘人のばか。
所在無くて、なんだかモジモジする。
っ!
いきなり腕を掴まれ引き寄せられた。
私は今、弘人の腕の中に居る。
あ、この香り…、弘人の香りだ。
ドクンドクン心臓が騒がしくなった。
「弘人…、えっと、なに?」
「…黙って。…悪かったよ」
「ぇ、どういう事?何の事?」
「…そんなつもり無いんだ、けど…、なんだかずっと…、冷たくしてて…、て言うか、…素っ気なくて悪かった。ごめんな」
「…」
「…お前が悪いんだぞ」
今度は何ー?私、悪者?
「祐希、…綺麗になったな」
頭の上に顎を乗せて来た。
「へっ?」
弘人の言葉と行動に頭がついていかない。
「…綺麗になったよ、祐希。
俺の学校の奴ら、騒ぎやがって、うるさいんだ。
祐希の事…、可愛い、可愛いって。…何処で見たんだか…」
「へっ?私は、弘人が何だか急に大人になってって…。
自分だけ子供みたいで…、私、取り残された気分になってて。
だから、わざと拗ねたり、わざとじゃない…、やきもちも妬いたし…それに…、キャッ」
背中に回された弘人の腕が更にきつく強く抱きしめた。
「…このまま。
もう少しこのまま、黙って抱かれてろ…」
…えーっ。
そっと顔を上げて窺うように見詰めた。
「シーッ、だ…」
唇に人差し指を付けられた。
ドキッ。
弘人が私の肩に顎を乗せてギューッと包み込むように抱き締める。
弘人に身体が飲み込まれそう…。
ボッ…どうしよう…顔が熱い。恥ずかしくて更に熱くなる。
身体がゆっくり、少し離れる。
傾けた弘人の顔が覗き込むように近付いてくる。
どうしよう、ドキドキが聞こえてしまいそう。
恥ずかしくてどうしようも無くて少し俯いた。
左手を後頭部に回され、下から唇が触れてくる。
ギュッと瞼を閉じる。
軽く触れてゆっくり離れていく。
恐る恐る、そっと瞼を開く。
間近で一瞬見つめ合う。
弘人の目…、綺麗…。
綺麗な目が口許に視線を移す。
顔がまた…近付いてくる。
…そっと触れる。
そして深く口づけられた。角度を替え…、何度も。
ふ、ん、んっ。
切なくて…、苦しくて。
弘人の胸のシャツを強く握り締めた手を軽く押す。
んん、はぁっ。
やっと解放された。
頭をゆっくり撫でられた。
「…お子様だな」