降車駅
きっとそうだ、と勝手に決め付けて、あたしはふと、さっき通りかかった駄菓子屋ののぼり旗を思い出した。
「ねえ、君」
声をかけながら、推定腹ペコ野球少年に近づく。
少年は振り返らない。
「ねえ!」
さっきよりも大きな声で呼んで、少年の顔を横から覗き込むと、
少年は「おわぁっ!」と奇声を上げてのけぞった。
「さっきから呼んでるんだから、返事しろ!」
「は? 俺?」
「そう!」
「いや、誰。人違いじゃないの」
「人違いじゃないよ。なぜならこの町に、あたしが知ってる人はいないからね」
そう。いない。
あたしが知ってる人も、あたしを知ってる人も。
だから、すごく自由な気分だ。
「少年、かき氷奢ってあげるよ」
普段なら絶対できない逆ナンだってしちゃうくらい、自由な気分。