降車駅



 きっとそうだ、と勝手に決め付けて、あたしはふと、さっき通りかかった駄菓子屋ののぼり旗を思い出した。



「ねえ、君」



 声をかけながら、推定腹ペコ野球少年に近づく。

少年は振り返らない。



「ねえ!」



 さっきよりも大きな声で呼んで、少年の顔を横から覗き込むと、

少年は「おわぁっ!」と奇声を上げてのけぞった。



「さっきから呼んでるんだから、返事しろ!」



「は? 俺?」


「そう!」


「いや、誰。人違いじゃないの」


「人違いじゃないよ。なぜならこの町に、あたしが知ってる人はいないからね」



 そう。いない。

あたしが知ってる人も、あたしを知ってる人も。


 だから、すごく自由な気分だ。



「少年、かき氷奢ってあげるよ」



 普段なら絶対できない逆ナンだってしちゃうくらい、自由な気分。



< 8 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop