横顔だけじゃ、足りなくて



夏祭りの日…


『真彩を頼む…』


そう言って頭を下げた那雲くん。


『えっ…』


『真彩が大好きな花火…
きっと今隣にいて欲しいのは俺じゃないから』


でも、悔しそうな表情を一瞬見せて、すぐに笑ったんだ。


ほんと凄いよ、那雲くんは。


真彩ちゃんのずっと隣にいて、誰よりも近くにいた時間が長いのに…


好きなはずなのに…




『ほら、花火が始まる前に行ってあげて下さいよ。』


『でも…』


『あいつ、感情をあまり表に出さないから…
だから、出来るだけ側にいて笑わせてやって下さい』


そう笑顔で言ってその場から立ち去ったんだ。


きっと、那雲くんの優しさに真彩ちゃんはあの時泣いたんだ。


やっぱり、那雲くんにはかなわないや。


だけど、絶対真彩ちゃんを悲しませたりしない。




-彗 side end-





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