横顔だけじゃ、足りなくて



そのまま家に着くまで一言も話さず、帰り別れてしまった。


家の前でぽつんと一人で立つ…




「何これ?
あー、もう!
すっごくイライラする!」




勢い良く那雲の家のドアを開けてズカズカ二階へ上がる。


そして那雲の部屋を開けてみると…


やっぱりね。

想像は付くよ。

何年一緒にいると思ってるの?


ベッドにうつ伏せて枕に顔を伏せていた。




「那雲、うざい!」


『はっ!?酷くね!?』




顔を上げ私を見てきた。


ネクタイが下げられて、第三ボタンまで開けてる…


ちょうど鎖骨が見えてしまう…


ダメダメ!

那雲なんかに見とれちゃ!




「レギュラー外れたから何なの?
もう諦めるの!?
それでサッカー部辞めるの!?」




いつもはそこまで言わないから、那雲は目をパチパチした。


言い過ぎたとは思ってないよ。


ただ、悲しいだけ

すぐへこたれる那雲は大嫌い。




『…悔しかったんだ』


「うん」


『自分に腹が立って、イライラしてた』


「うん」


『俺…』




そこまで言うと那雲の頬からぽろぽろと涙がつたっていった…


また、泣いたね。

いつまで経っても変わらない。

すぐ泣く那雲の悪い癖。


それを慰めるのはいつも私。



ゆっくり那雲に近づいて、ベッドに肩膝をつけて抱きしめた…



泣き顔は見たくないよ。


笑ってる顔が見たい。




「泣いていいよ。
笑ってくれるなら」




震える背中を抱きしめ、耳元で「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせる。


早く、この癖直してよ?


いつか那雲に好きな人が出来たら、こんなんじゃ振り向いてもらえないよ?




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