空よりも高く 海よりも深く
「それがいいよ。そうしたら俺もリディルに会いに行くからさ!」

 フェイレイも大きく頷く。

 リディルはみんなの意見を聞いて、ぎゅっと両手を握りこんだ。

「うん……でも、ギルドがいい。傭兵として、働きたいの」

「何故だ。傭兵は危険な仕事なんだぞ。国や街の依頼を受けて、色んな任務をこなさなければならない。時には自分よりも大きな魔族とも戦わなければならない、命に関わる仕事なんだぞ。私も父さんも、フェイも。お前に怪我などさせたくないし、危険な目にも遭わせたくない。リディルは私たちの大事な家族だからな」

 アリアは席を立ち上がり、リディルの細い肩に手を置いた。翡翠色の目が、哀しげにアリアを見上げる。

「俺も、リディルが怪我するのは嫌だよ」

「そうだね。父さんも嫌だな。リディル……もう少し、考えてみてくれないかい?」

 フェイレイやランスもそう続けた。

 リディルは瞳を伏せて、それきり黙ってしまった。






「何故、あのようなことを言い出したのか」

 夫婦の寝室で、アリアはベッドに大の字に寝転がりながら呟いた。

「フェイがいつも怪我をして帰ってくるからね。癒しの術は、きちんと学校で習わないと出来ないから、じゃないかな」

 ランスもその隣に寝転び、アリアに腕枕をしながら彼女の赤い髪を撫でている。

「ならばギルドでなくともいいはずだ。リディルは何故医療科への転校を渋ったんだ」

「……傍にいたいから、じゃないかな」

「フェイの?」

「うん」

「まだ依存心が残っているのか?」

「そうすぐには無くならないよ。でも今回のは、依存ではないんだと思うよ」

「……ん?」

「フェイに護られたいんじゃなくて、フェイを護りたいと、自分で思ったんだよ。ギルドの傭兵になれば、同じ班になるかもしれないし、そうしたら怪我しないようにサポートも出来るからね」

「そういうことか。……なら、フェイのためなのか」

 ふと、アリアは思い出す。

 一年前、フェイレイがギルドに入りたいと言い出したときにリディルに言った言葉を。

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