空よりも高く 海よりも深く
「今まで病気ひとつしたことのないお前が、こんなに弱った姿は初めて見た。一体どうした。どこも悪くないのであれば精神的なものなのだろう。お前はいつも、何かに悩んでいる。そろそろ私にも話してくれないか」
真摯な目で見下ろしてくるアリアを、ランスも見つめ返す。
助けを求めたせいで、ギルドでの仕事を放り出させてしまった。アリアにも、秘書たちにも、他の関係者たちにも悪いことをしてしまったと、覚め切らない頭で思う。
それから目を閉じて、ゆっくりと深呼吸。そしてまた目を開いて、落ち着いている自分を感じる。今はまだ大丈夫だ、と思う。
「……今までは、俺も良く分からなかったんだ。でも、今日、はっきりと分かったよ」
「なんだ」
「俺は、世界の破壊者なんだ」
アリアが眉根を寄せて首を傾げた。当然の反応だろうと、ランスは続ける。
「俺はギルドで力を振るうたび、魔族を斬り刻むたび、自分が自分でなくなるような感覚をいつも持っていた。いつだったか、アリアに言われただろう、『何故本気を出さないのだ』と」
「……ああ、言ったな」
「俺にも良く分からなかったんだ。何故、本気の力を出そうとしないのか。……俺が破壊者だからだ。俺の意志を超えた力が暴走したら、もう誰も止められなくなる。それが無意識のうちに分かっていたのだと思う」
「確かにお前の力は凄いと思うが……自分では抑えられない力、ということなのか?」
「そう、だね。俺の意識がしっかりしているうちは、大丈夫だと思う。……今は、落ち着いている」
「それは今今の話なのか」
「うん」
にわかには信じ難い話に、アリアは戸惑いを隠せない。それでもこの夫がこんな状態で嘘を言うとも思えず、アリアなりに真剣に今までの彼を思い出してみる。
いつでも穏やかに笑い、暴走するアリアを抑えてくれるのはいつも彼だった。
戦闘時の強さは他の追随を許さないものだったが、すぐ隣で戦っていたアリアには分かった。彼は本気ではないと。
生死をかけた魔族との戦闘において、何故手加減する必要があるのかと、苛立ちを覚えた日もあった。
真摯な目で見下ろしてくるアリアを、ランスも見つめ返す。
助けを求めたせいで、ギルドでの仕事を放り出させてしまった。アリアにも、秘書たちにも、他の関係者たちにも悪いことをしてしまったと、覚め切らない頭で思う。
それから目を閉じて、ゆっくりと深呼吸。そしてまた目を開いて、落ち着いている自分を感じる。今はまだ大丈夫だ、と思う。
「……今までは、俺も良く分からなかったんだ。でも、今日、はっきりと分かったよ」
「なんだ」
「俺は、世界の破壊者なんだ」
アリアが眉根を寄せて首を傾げた。当然の反応だろうと、ランスは続ける。
「俺はギルドで力を振るうたび、魔族を斬り刻むたび、自分が自分でなくなるような感覚をいつも持っていた。いつだったか、アリアに言われただろう、『何故本気を出さないのだ』と」
「……ああ、言ったな」
「俺にも良く分からなかったんだ。何故、本気の力を出そうとしないのか。……俺が破壊者だからだ。俺の意志を超えた力が暴走したら、もう誰も止められなくなる。それが無意識のうちに分かっていたのだと思う」
「確かにお前の力は凄いと思うが……自分では抑えられない力、ということなのか?」
「そう、だね。俺の意識がしっかりしているうちは、大丈夫だと思う。……今は、落ち着いている」
「それは今今の話なのか」
「うん」
にわかには信じ難い話に、アリアは戸惑いを隠せない。それでもこの夫がこんな状態で嘘を言うとも思えず、アリアなりに真剣に今までの彼を思い出してみる。
いつでも穏やかに笑い、暴走するアリアを抑えてくれるのはいつも彼だった。
戦闘時の強さは他の追随を許さないものだったが、すぐ隣で戦っていたアリアには分かった。彼は本気ではないと。
生死をかけた魔族との戦闘において、何故手加減する必要があるのかと、苛立ちを覚えた日もあった。