空よりも高く 海よりも深く
「お前はちゃんと理性で力を抑えていた。問題はなかったはずだ」

「今まではね……。でも……分かりやすく言えば、今まで眠っていたものが“目覚めてしまった”んだ」

「一体、どうして」

「それは俺にも分からない。今はこうして落ち着いているけれど……何かを壊したくて仕方ない衝動がたまに押し寄せてくる。気を抜くと、君にも暴力を振るいそうだ」

 その言葉には、アリアも少なからず衝撃を受けた。殴られることはあっても、ランスがアリアに手を上げたことは一度もないのに。

「なんとかならないのか」

「……どう、だろう」

 何か対処法が分かれば良いのだが、この衝動が何なのか、あの青年が何なのか、はっきりしたことは何一つ分からない。

 けれど、ひとつだけ。

 最も残酷なことだけは、分かった。

「アリア……君に、謝らなければならないことが」

 ランスは顔を歪めた。

 少しだけ、言葉にするのを躊躇った。

 けれども、喉の奥から絞り出すようにして、伝える。伝えなければならない。

「恐らく、フェイレイもそうだ。フェイは……間違いなく俺の血を引いている」

 はっきりとアリアの表情が変わるのを見て、ランスは死にたくなった。今すぐ殺して欲しくなった。彼女と出会う前の過去に戻って、すべてをやり直せたら。

 だがどんなに望んでも、時計の針は戻らない。

 ランスは人並み外れた戦闘力、魔力を持っている。そしてそれはフェイレイも同じなのだ。二人に共通するのは、莫大な魔力を持ちながら精霊を召喚出来ないということ。

 何故だ、何故だと思いながら、ずっと理由が分からずにいた原因。

 それは精霊たちがランスやフェイレイの本質には惹かれても、その“血”には寄り添えないから、なのかもしれない。

 ランスとアリア、二人の間に生まれた愛しい息子には、恐ろしい血が流れている。

「……血筋、だというのか」

 アリアのランスの顔を挟み込む手が震えている。

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