空よりも高く 海よりも深く
「ああ」
「しかしお前の父上は……!」
ランスの両親はフェイレイの誕生を見守った後、まるで役目は終わったと言わんばかりに次々と星に還っていった。孫の顔を見せられたことが唯一の親孝行だったとランスは語っていた。アリアが覚えている限り、とても優しい人たちだった。
「父さんは何でもなかった。きっと、父さんは“目覚めなかった”んだ。死ぬまで自分を保っていられた」
「じゃあなんでお前は目覚めたというんだ! お前は……誰よりも優しくて、強い男だ。破壊者などとふざけた輩になるはずがないではないか!」
「ごめん……原因は本当に分からない。けれど、フェイも……目覚めなければ、きっと父さんのように生きられる」
ランスの言葉を聞いていたアリアは、ふと、その意味に気付いて、唇を戦慄かせた。
「お前は……生きられないと、いうのか」
ランスは、笑った。
辛そうに、けれども、何とか笑った。
「アリア……君が愛しい」
重い腕を持ち上げて、愛しい妻の頬に手を添える。
「愛しくて堪らないんだ。……なのに」
空色の瞳から、涙が滑り落ちた。
「憎いんだ。俺の中の“破壊者”が、君を赦さない。……この世界に生きることを、赦さない。……愛しいのに、殺してしまう。アリア……そうなる前に、俺を殺してくれ。でないと、俺は、子どもたちをも手にかけてしまう。そんなことはしたくないんだ、頼む、アリア。……ああ、でも。フェイはその方が幸せなんだろうか。こんな血に目覚めさせるより、明るくてかわいい俺たちの息子でいるうちに、命を終わらせた方が。その方がリディルにも」
「ランス!」
アリアはギリリと奥歯を噛み締めて、彼の胸倉を掴んで上半身を引き上げた。
そして爪が掌に食い込むほど強く拳を握りしめ、力一杯夫の秀麗な顔を殴りつけた。血飛沫が飛び、歯も何本か折れた感触がした。それだけ手加減なしに、本気でぶん殴ってやった。
「……殴ればいいんだろう」
アリアはランスの胸倉を掴んだまま、言った。その拳は夫の血に濡れている。
「しかしお前の父上は……!」
ランスの両親はフェイレイの誕生を見守った後、まるで役目は終わったと言わんばかりに次々と星に還っていった。孫の顔を見せられたことが唯一の親孝行だったとランスは語っていた。アリアが覚えている限り、とても優しい人たちだった。
「父さんは何でもなかった。きっと、父さんは“目覚めなかった”んだ。死ぬまで自分を保っていられた」
「じゃあなんでお前は目覚めたというんだ! お前は……誰よりも優しくて、強い男だ。破壊者などとふざけた輩になるはずがないではないか!」
「ごめん……原因は本当に分からない。けれど、フェイも……目覚めなければ、きっと父さんのように生きられる」
ランスの言葉を聞いていたアリアは、ふと、その意味に気付いて、唇を戦慄かせた。
「お前は……生きられないと、いうのか」
ランスは、笑った。
辛そうに、けれども、何とか笑った。
「アリア……君が愛しい」
重い腕を持ち上げて、愛しい妻の頬に手を添える。
「愛しくて堪らないんだ。……なのに」
空色の瞳から、涙が滑り落ちた。
「憎いんだ。俺の中の“破壊者”が、君を赦さない。……この世界に生きることを、赦さない。……愛しいのに、殺してしまう。アリア……そうなる前に、俺を殺してくれ。でないと、俺は、子どもたちをも手にかけてしまう。そんなことはしたくないんだ、頼む、アリア。……ああ、でも。フェイはその方が幸せなんだろうか。こんな血に目覚めさせるより、明るくてかわいい俺たちの息子でいるうちに、命を終わらせた方が。その方がリディルにも」
「ランス!」
アリアはギリリと奥歯を噛み締めて、彼の胸倉を掴んで上半身を引き上げた。
そして爪が掌に食い込むほど強く拳を握りしめ、力一杯夫の秀麗な顔を殴りつけた。血飛沫が飛び、歯も何本か折れた感触がした。それだけ手加減なしに、本気でぶん殴ってやった。
「……殴ればいいんだろう」
アリアはランスの胸倉を掴んだまま、言った。その拳は夫の血に濡れている。