空よりも高く 海よりも深く
「お前が私を、子どもたちを殺そうと考えるたび、私が殴ってやる。……倒れる前にも言っていたな、そういうことだろう。私が止めてやる。安心しろ。だから」

 深海色の瞳に涙が膨れ上がる。それを零すまいと歯を食いしばりながら、アリアは真っ直ぐにランスを見つめる。

「死ぬな。父上のように、生きろ。フェイレイに生きることを諦めさせるな」

 揺れる空色の瞳と、深海色の瞳。

 互いに縋り付くような目だ。

「今大丈夫ならこれからも大丈夫だ。なんとかなる。なんとかしてみせる。だから私に、お前と共に生きる道を諦めさせるな。お前と共に、生きて、子どもたちを見守るんだ。あの馬鹿がちゃんとリディルを護れるようにするんだろう? 私一人じゃ……お前と一緒じゃなきゃ、嫌だ。一緒に、あの子たちを見届けるんだ。護ってやるんだ。なあ、ランス!」

 胸倉を掴みながら、アリアはランスの肩に顔を埋めた。

「生きてくれ、頼むから……!」

 気の強いアリアが、胸倉を掴む手を、肩を、小刻みに震わせていた。

 ランスはその体を壊さないように、そっと、そっと、気遣いながら抱きしめた。愛しいと思えば思う程、憎しみが増していた。

 けれども必死になってそれを抑えた。

 負けるものかと、抑え込んだ。






 同時刻、皇都ユグドラシェルの皇城。

 様々な城や建物が広大な敷地の中にぽつり、ぽつりと立つ中で、惑星王が座する宮殿は何にも染まらない、何にも屈しない唯一の皇、という意味が込められた黒石で出来ていた。世界各地にある神殿も黒石で出来ているが、これは神(ユグドラシェル)を御神体としているからだ。

 大きな湖の中央に建つ宮殿は、勇壮な姿でひっそりと佇む。

 その神聖な城の中を慌てて駆ける者が、ひとり。

「カイン!」

 バタン、と扉を開け放って豪奢な部屋に飛び込んできたのは、ピンクブロンドの巻き毛を持つ美しい少女、ローズマリー=サラスティ=ユグドラシェル。

「カイン、倒れたって聞いたが大丈夫なのか!」

 美しい顔(かんばせ)には似合わない乱暴な言葉で部屋の中を突き進み、隣の寝室へと踏み入る。

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