空よりも高く 海よりも深く
「皇后陛下!」
そんな彼女に、控えていた女官が鋭い声をかける。
「あっ……」
ローズマリーは慌てたように口を押え、それからキョロキョロと周囲を見渡した。いつも付き従えている他の女官たちは急ぐローズマリーの足についていけず、その辺りに置いてきたようだった。他に誰もいないことにほっとしつつ、走ってきたために乱れた髪を整え、ドレスの裾を整えた。
「ごめんなさい……」
急にしおらしくなった彼女に、軽い笑い声が届く。
「いいよ、急いできてくれたんだね、ありがとう」
広い天蓋付きのベッドに、いくつものクッションを背にした紺色の髪の美丈夫が横たわっている。今上惑星王、カイン=アルウェル=ユグドラシェルだ。
カインは優し気な笑みを浮かべると、ローズマリーに手を差し伸べた。
「おいで、ローズ」
ローズマリーはコクリと頷き、先程とは違い、楚々とした足取りでゆっくりとカインに近づく。
「今日はウィンストン侯爵令嬢たちとお茶会だったのだろう。中断させてしまってすまなかった」
「いいえ、あの方たちよりカインの御身の方が私には大事です。……どこかお悪くしたのですか?」
「いや、ただの過労のようだよ」
それを聞き、ローズマリーは少しだけ安堵の表情を浮かべた。
「……カインは少し忙し過ぎるのです。もう少しお休みくださいませ」
「うん、もう少ししたらね」
「もう少し、もう少しと、いつになったら休むのですか」
ローズマリーは上目遣いにカインを睨みつける。
「すまないね、もう少し……頑張らせてくれ」
小さな子をあやす様に、カインはローズマリーの頭を撫でた。
彼はこの皇宮内の改革を行っている真っ最中だ。惑星王──皇帝の権力が弱まったために起きたクーデター。それにより失った小さな妹。信頼の置ける側近たち。もう二度とあのような悲劇を起こさないために、腐りきった膿を全部出してしまいたかった。だから今、手を抜くわけにはいかない。
そんな彼女に、控えていた女官が鋭い声をかける。
「あっ……」
ローズマリーは慌てたように口を押え、それからキョロキョロと周囲を見渡した。いつも付き従えている他の女官たちは急ぐローズマリーの足についていけず、その辺りに置いてきたようだった。他に誰もいないことにほっとしつつ、走ってきたために乱れた髪を整え、ドレスの裾を整えた。
「ごめんなさい……」
急にしおらしくなった彼女に、軽い笑い声が届く。
「いいよ、急いできてくれたんだね、ありがとう」
広い天蓋付きのベッドに、いくつものクッションを背にした紺色の髪の美丈夫が横たわっている。今上惑星王、カイン=アルウェル=ユグドラシェルだ。
カインは優し気な笑みを浮かべると、ローズマリーに手を差し伸べた。
「おいで、ローズ」
ローズマリーはコクリと頷き、先程とは違い、楚々とした足取りでゆっくりとカインに近づく。
「今日はウィンストン侯爵令嬢たちとお茶会だったのだろう。中断させてしまってすまなかった」
「いいえ、あの方たちよりカインの御身の方が私には大事です。……どこかお悪くしたのですか?」
「いや、ただの過労のようだよ」
それを聞き、ローズマリーは少しだけ安堵の表情を浮かべた。
「……カインは少し忙し過ぎるのです。もう少しお休みくださいませ」
「うん、もう少ししたらね」
「もう少し、もう少しと、いつになったら休むのですか」
ローズマリーは上目遣いにカインを睨みつける。
「すまないね、もう少し……頑張らせてくれ」
小さな子をあやす様に、カインはローズマリーの頭を撫でた。
彼はこの皇宮内の改革を行っている真っ最中だ。惑星王──皇帝の権力が弱まったために起きたクーデター。それにより失った小さな妹。信頼の置ける側近たち。もう二度とあのような悲劇を起こさないために、腐りきった膿を全部出してしまいたかった。だから今、手を抜くわけにはいかない。