空よりも高く 海よりも深く
 けれども親としては何か悔しい。

 悔しいのである。

「お前も早く嫁を見つけてこい!」

 更にどん、とテーブルを叩いたら、スープを飲んでいたフェイレイがゲホゲホと咳き込んだ。

「いや、お、俺は、まだ」

「まだいないのか!」

 息子の想い人が誰かは知っているが、ここは敢えてそう訊いてみる。

「いや、うん、決めてるけど、告白がまだで。な、リディル」

 フェイレイはチラチラと視線をリディルにやる。

「……なんで私に話を振るの?」

 リディルは胡乱な目でフェイレイをみる。

 そりゃそうだ。

 ランスとアリアは呆れながら息子を眺めた。告白する相手を前にする話ではない。リディルの方でフェイレイの気持ちに気付いていて、後で告白するから、なんてフェイレイから言われているのならまだしも。……それもどうかという話だが。

「いや、だって、リディルがいないと告白のしようがないし」

「そうなの」

「結婚の話も進まないし」

「そうなの」

「そうなんだ」

「ふうん」

 なんだこの会話。

 ランスとアリアは冷や汗を掻いた。

 これは、リディルはフェイレイの気持ちに気付いているに違いない。この会話で気づいていなかったらよほどの馬鹿だ。

 しかしリディルの態度はいかがなものか。昔はもう少しこう、赤くなったりしていたのではなかったのか。ここまでフェイレイに興味がなさそうなのは何故だ。

 しかもフェイレイはフェイレイで、照れた様子が一切ない。

 これはもしかして。

 フェイレイはリディルに気持ちを告白しているようなものだと、まったく気づかずにこんな話をしているのか。

 リディルはフェイレイのそんな馬鹿さに気付いていて、あえて素っ気なくしているのか。動揺するだけ損だから。


 ……ウチの息子が馬鹿だから話が進まないのだな。

 ランスとアリアは頭を抱えて突っ伏した。

 どうしてこんな風に育ってしまったのだろう。頭を抱えるしかない。


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