空よりも高く 海よりも深く
 アレクセイを案内して支部長室にやってくると、エインズワース夫妻が待っていた。

「元宮廷精霊士、クライヴ=モリア=エインズワースの親族ですね。連行します」

 アレクセイが手を上げると、彼の後ろにいた星府軍の兵士たちが夫妻を取り囲んだ。

「元帥、お待ちください。その者たちに抵抗の意思はありません。どうか、手荒な真似は……」

「共にここで過ごした者に情でも湧きましたか、支部長」

「我々は常に死と隣り合わせの世界で戦っています。信頼関係がなければならないのです」

「この者たちは惑星王に仇名す者たちです。下手な庇い立ては貴女のためにも、ギルドのためにもなりませんよ」

 アリアは反抗の意思を伝えようとしたが、僅かに視線の合ったオズウェルとビアンカに目で制されてしまった。

 罪人である我々を庇うな。

 そう、言っていた。

 アリアは苦々しい想いを湧き上がらせながらも、なんとかそれを押し留め、取り押さえられようとしている夫妻を見守る。

 と、そこへ。

「母さん!」

 エレベーターホールから、息子の声が響き渡った。振り返ればフェイレイとリディル、そしてヴァンガードが切羽詰まった様子で駆け寄ってくるところだった。

 アリアはチラリとエインズワース夫妻へ目をやる。

 兵士たちは後ろに下がり、直立不動の構えを取った。おそらくリディルが来たからだ。ヴァンガードに両親を押さえつけられている光景を見せなくて済んだことに、アリアは安堵した。

 アレクセイはリディルの姿を見て目を細めると、彼女の前に跪いた。

「お迎えに上がりました。リディアーナ=ルーサ=ユグドラシェル皇女殿下」

 目の前で頭を下げる騎士に、リディルは何が何だか解らず、ただ瞬きを繰り返している。

「皇女殿下には、これより、皇都にご帰還いただきます。兄上様がお待ちです」

「……兄?」

「はい」

 アレクセイは頭を下げたまま、答える。

「惑星王、カイン=アルウェル=ユグドラシェル皇帝陛下にございます」

 リディルが僅かに目を見張った。それは普段表情に乏しい彼女にしてみれば、驚くほどの感情の顕現であった。

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