空よりも高く 海よりも深く
 息子も驚くかと思っていたアリアだが、意外にもそれほど驚いた様子はなかった。ただ、アレクセイを警戒している。

 ……気づいていたのだろうか。あの馬鹿息子が、女王召喚が出来るのは皇家の血筋の者のみであることを知っていたとは意外だったと、アリアは単純に驚いていた。

「皇女殿下。このセルティア国を平穏無事に保つためにも、どうか、皇都へご帰還くださいませ」

「どういうこと、ですか?」

「殿下が戻られなければ、陛下はこのセルティア国を殲滅させるとのお考えです」

 アレクセイのその言葉に、フェイレイが弾かれるようにアリアへ視線を向けた。

 確かに、それだけの戦力がこの空には浮かんでいる。もしかしたら西や南の国と同じように滅ぼされるかもしれない。その戦を引き起こすのはお前の母である──。フェイレイの視線がアリアにそう、再認識させた。思わず息子から目を逸らす。

 フェイレイはそれで、これは冗談ではなく現実に起こりうる話なのだと理解したのだろう。

「国を殲滅って……そんな!」

 今にもアレクセイに食って掛かりそうなフェイレイを、アリアは目で制した。

 今はまだ暴れるな、ちゃんと後でリディルを助けるから──。そう念を送ってみたが、そんな想いが息子に届くはずもない。

「正当な理由あってのことです。皇女、及び罪人を匿った罪。それは全国民で負うべきだと」

 アレクセイは淡々とそう説明する。

「そんなこと……」

「皇女殿下がお戻りになられるなら、何も問題はありませんよ」

 アレクセイの無慈悲な言葉に、フェイレイはリディルの手を強く握り締めた。それに気づいたアリアは、まさか、と息子を見る。

「そんなこと、させない」

 フェイレイはそう言ってリディルを背に庇った。何がなんでも護る。そんな意志が深海色の瞳に見える。

 まさか、皇都に連れていかれたリディルがどうなるのかまで、息子は知っているのだろうか。それを知った息子が大人しくリディルを引き渡すとは思えない。──ああ、何故気づいているんだお前!

「フェイ」

 アリアが止めようと声をかけると、同時にリディルからも制止の呼びかけがあった。リディル、そのままフェイを引き留めろ──そう願うも、もうアレクセイは臨戦態勢に入っていた。

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