空よりも高く 海よりも深く
「逆らうのですね」

 アレクセイはスッと立ち上がると、無表情にフェイレイを見下ろした。その身からはみるみる闘気が立ち上がっていく。

「やめろフェイ」

 もう一度、アリアは制止の声をかける。だが、もう2人の間では戦いは始まっていた。

 少しずつ距離を取りながら、交わらせた視線だけで互いの力量をはかるフェイレイとアレクセイ。馬鹿、やめろ、お前はこいつに敵わない、解っているだろう、気付かないはずはないよな、とアリアは焦燥に喉の奥を焦がす。

「ヴァン、リディルと壁まで下がれ」

「フェイレイさん」

 ただならぬ空気にヴァンガードは身を震わせたが、言われた通りにリディルの手を引いてエレベーターの前まで下がった。

「フェイ!」

 後ろからのリディルの声を耳に入れながらも、フェイレイはアレクセイから目を離さなかった。いや、離せないのだ。アリアにもそれが解った。

 一瞬でも隙を見せたら、斬られる。

 アレクセイはそれほどの覇気をフェイレイに見せ付けていた。

「惜しい」

 アレクセイの小さな呟き。

 同じ剣士として、成長途中の有望な若者を屠ることへの憂い。

 そしてそれは一瞬のことだった。

 ふ、と空気が動いた。

 そう思ったときには、2人は剣を引き抜いて中央で交わらせていた。交わった剣を互いの力で押し合うと、そこから2人の気が弾けて四方に飛び散った。突風となって飛んできた気の残骸は、周りにあるものを吹き飛ばし、壁や窓に亀裂を作った。

「やめろフェイ!」

 アリアは前に出て行こうとするが、更に第二波が飛んできて目を開けていられず、腕を翳して後退した。背後にある窓ガラスが割れ、外に吹き飛んでいく。

「やはり惜しいな」

 アレクセイは剣を交わらせながら、そう呟いた。

「だが」

 フェイレイの剣を弾き、一旦身を引く。すかさずフェイレイは踏み込み、剣を袈裟斬りに振り落とした。それを半身でかわし、そのままくるりと回転して正面を向き、上からフェイレイの剣を叩いた。

「皇家に仇なす者を、排除するのが私の役目」

 剣から伝わってくる力に手が痺れ、フェイレイは剣を落としかけた。それを左手で受け止め、体勢を崩しながらも振り上げる。

 騎士は難なくそれを受け止め、フェイレイは弾き飛ばされた。

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