空よりも高く 海よりも深く
「フェイ!」

 アリアが、リディルが、ヴァンガードが。身を乗り出して手を伸ばす。

 床の上を転がり、体勢を整えようとしたフェイレイに、アレクセイの剛剣が迫る。何の感情もない冷たい瞳で、フェイレイの首を斬り落とす──。


「やめて!!」


 そこに、リディルの声が飛んだ。

 ピタリと、両者の剣が止まる。

 アレクセイの剣はフェイレイの首にピタリと当てられ、つ、と血が首筋を伝っていった。だが、無我夢中で振り上げられたフェイレイの剣はアレクセイの胸まで届いていなかった。リディルが止めなければ……完全にやられていた。アリアの背中にどっと汗が流れていく。

「……皇女殿下のお言葉であるならば、従います」

 アレクセイはそう言うと、ひゅっと剣を一振りして腰の鞘に戻した。それを見て、やっとフェイレイは大きく肩で息を始める。同じようにやっと息を始めたアリアは、つかつかとフェイレイに近づき、首根っこを捕まえると後ろに投げ捨てた。

「ぐへっ」

 妙な声を出して床に転がるフェイレイに、リディルが駆け寄る。

「失礼をいたしました、アレクセイ殿。この者の非礼、平にご容赦願いたい」

 深々と頭を下げるアリアに、フェイレイは腹を立てる。

「母さん! なんで!」

「黙れ!」

 アリアは低頭しながらフェイレイを怒鳴りつけた。

 この阿呆が、死ぬところだったぞ、親より先に逝く親不孝者になるつもりか。アリアは震えそうになる身体を必死に押さえつける。

 アレクセイは、フェイレイに寄り添うリディルに視線を送った。

「いかがなさいますか、皇女殿下。私は殿下の言葉に従います」

 一緒に来るのならば、この者たちには何もしない。けれど逆らうと言うのであれば……。そんな言葉をアレクセイの目は語っている。

 リディルはアレクセイを見つめた後、フェイレイの首筋に指を伸ばし、森の精霊フォレイスを召還した。そうしてゆっくりと時間をかけて彼の傷を癒した後、立ち上がった。

「この人達を傷つけないで。この国の人達を傷つけないで。私は……皇都に行く」

「リディル!」

 フェイレイは立ち上がり、リディルの肩を強く掴んだ。

「駄目だ、皇都に行ったら!」

 フェイレイの顔が歪む。けれどもリディルは、まるで全てを理解しているかのように微笑んだ。



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