空よりも高く 海よりも深く
 もっと。

 もっと、お前に襲い掛かる敵は強いのだ。これくらい、捌け!



 渾身の力を込めて叩き付けた拳を、フェイレイは掌で受け止めた。

 深海色の瞳同士が、かち合う。

 そこには愛しい少女を救いたい少年と、彼にその想いを全うさせたい母の、譲れない想いが映し出されていた。


 いい顔をするようになった、と、思わず笑みを零しそうになりながらフェイレイの顎に蹴りを放った。

 顎への攻撃は脳を揺らす。どんな猛者も脳を揺らされたら倒れるしかない。

 簡単にそんなところに攻撃を許すんじゃない、と叱責しそうになったアリアは虚を突かれた。フェイレイに足を掴まれたのだ。そして力任せにグルリと振り回され、飛行艇の格納庫目掛けて投げつけられた。

 戦いを見守るヴァンガードとブライアンがハッと息を呑む。それほど勢いよく投げつけられたのだ。

 しかしアリアは飛行艇の灰色の格納庫に叩きつけられる前にくるりと回転し、まるで地面に降り立つかのように、垂直の壁に着地した。

「やってくれる」

 ニヤリと笑いながら顔を上げると、フェイレイが地面から飛び上がったところだった。それに応戦しようと、アリアも壁を蹴る。

 宙で交差する瞬間に、互いに蹴りを繰り出す。

 それは綺麗に交わり、そこから暴風が吹き荒れた。ヴァンガードもブライアンも、腕を掲げて後退する。物凄い圧力だった。

 力が拮抗しているため、蹴りでは互いを弾くことが出来ない。

 フェイレイとアリアはそのまま落下し、着地した瞬間に更に拳を交えた。

 どん、と空気が重く震える。

 その震えが収まらないうちに、拳と蹴りの応酬が始まる。


『母さん、俺、強くなりたい』


 遠い、昔の記憶。

 身体の小さかったフェイレイは、よく大柄なガキ大将のグループに苛められていた。

 それでも彼は暴力を返そうとはしなかった。自分が痛めつけられることは我慢出来たのだ。

 けれども我慢出来ないものがあった。

 リディルが殴られたのだ。

 それもフェイレイを庇ってのことだった。

 それまでフェイレイはリディルのことを庇護の対象として見ていたのだろう。妹のように慈しみ、守ってきた。その彼女に守られた。怪我を負わせた。それが幼い少年の心にはよほど堪えたらしい。息子は母を頼ってきた。強くなりたいと。

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