空よりも高く 海よりも深く
「私だ、王からか?」

『はい、セルティア王からの通信です』

「繋げ」

 しばらく待っていると、通信機にセルティア国王クラウスの姿が小さな立体映像となって映し出された。いつもは穏やかな彼も、さすがに切羽詰ったような厳しい表情をしていた。

『アリアよ、戦艦が動き出したか』

「はい。国民の避難状況はいかがですか?」

『現在までの報告では、まだ80パーセントだ。あと2時間ばかり欲しかったが』

「各地への攻撃は身を挺して防ぎます。王は引き続き民の避難をよろしくお願いいたします。避難が終わったところで、王の戦艦を拝借いたします」

『あい、分かった』

 プツリ、と通信が切れる。

 フェイレイとヴァンガードは未だ、何が起きているのかよく呑み込めていない顔だ。

「あの、支部長……これは、一体……?」

 おずおずとヴァンガードが訊いてきたので、アリアは早口に説明した。

「セルティア王は10年前の災害時に、もうこのような惨事を引き起こしたくないと、各地に対魔族用にシェルターを建設されていたのだ。そこに全国民を避難させている。そしてギルドからも傭兵を出し、防衛にあたらせている」

「それは……星府軍がリディルさんを連れていっても、攻撃してくると……分かっていたってことですか?」

 ヴァンガードの質問に、アリアはああ、と応える。

「そうなるだろうとは思っていた。だから昨日のうちにセルティア王に国民を避難させるようにとお願いしておいたのだ。ギルドだけなら何とでもなるが、国民のことは王でないと」

「じゃあなんでリディルを差し出したんだ!」

 こうなることが分かっていて、わざわざリディルを危険な目にあわせることはなかったのではないかと、フェイレイが怒鳴る。

「……時間が足りなかったのだ。国民を避難させるために、時間稼ぎしなければならなかった。だから、お前に今暴れられても困ったのだ。まったく、人の作戦をぶち壊そうとしてくれて。向こうからの攻撃を防ぐために戦うのと、こちらから手を出すのとでは大きく意味が違うというのに。……ああ、久しぶりに動いて息が切れた。年は取りたくないものだな……」

 ハア、と一息ついて、アリアは格納庫に停められている飛空艇を動かすよう指示を出した。

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