空よりも高く 海よりも深く
「本当は私が行くつもりだったが……」

「母さんが!?」

「かわいい娘のためだ。あいつら、リディルに何かしてみろ。ギッタンギッタンに殴りつけてボロ雑巾のように捨ててやる」

 ふん、と鼻を鳴らすと、フェイレイが嬉しそうに目を輝かせた。

「だが……今回はお前に任せよう。星府軍から逃げ続けなければならなくなるぞ。覚悟は出来ているのだろうな?」

「もちろん!」

 フェイレイは力強く頷いた。

「さっきも言った通り、お前のIDは削除する。今後の逃亡生活のためだ。新しいIDは父さんに貰え」

「父さんに?」

「父さんには北の大陸に渡ってもらった。リディルを見つけたら飛行艇でも掻っ攫え。それで『オースター島』に行くんだ。お前は一度だけ行った事があるんだが、覚えてないだろうから地図は入れておいた」

「分かった」

「あの!」

 2人のやり取りを聞いていたヴァンガードが、意を決したように声をかけた。

「僕も行きます。僕のIDも削除してください」

「お前が?」

 アリアは眉を顰める。

「だが、お前のことはご両親から頼むと言われている。こんな危険に巻き込むわけには……」

 ウウ~、とサイレンが鳴り響き、3人は空を見上げた。

 黒い戦艦の底から突き出された大口径の主砲が光を蓄えている。それは稲妻のような速さで撃ち落された。

 ピシャアアア、とセンタービルに張られたシールドに、円形状に光が走る。ビル全体がグラグラと揺れたが、なんとか耐え切ったようだ。

「第一種戦闘配置! 敵艦を撃て!」

 アリアはインカムに向かって怒鳴った。

 途端に、飛行場に停まっていた白い飛行艇が一斉に飛び立っていった。街のあちこちに隠されていた砲台も動き出す。

 同時に空でも異変があった。

 星府軍の巨大戦艦はいくつもの砲撃台を出し、その周りを飛び交っている黒い飛行艇もこちらに向かって突っ込んできた。

 星府軍とギルドの飛行艇の間で砲撃が始まる。

 激しい砲撃戦を空に見て、アリアはヴァンガードに静かに言った。

「こんな中を突っ切らなければならない。……お前のような未来ある少年に、危険を冒させるわけにはいかん」

 アリアの言葉に、ヴァンガードは首を横に振った。

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