空よりも高く 海よりも深く
「陛下のことについては、ウチの息子がすまんことをした」

 アリアは謝罪しながらも、グローブの填められた手をギュッと握りしめ、渦巻く闘気を纏った。それを見て、アレクセイは剣を鞘に戻した。

「……あの少年は貴女の息子さんでしたか。ああ、そういえば……」

 アレクセイは細い顎に手をやり、逡巡する。

 それは僅かな時間だった。

 彼はすぐに笑みを浮かべると、剣の柄に手をやった。

「成程。貴女との決闘を受けましょう」

 アレクセイは鋭い目を細め、何故だか嬉しそうに微笑んでいた。その表情とは裏腹に、爆発するような覇気が彼を包み込み、アリアへと襲い掛かってくる。

「……貴様に勝ったら、フォルセリアへ向かった戦艦を戻し、この国から手を引くと約束してもらおう!」

 身震いするほどの覇気を受けながらも、アリアは毅然と言い放った。

「いいえ、貴女が勝ったらこのままセルティアを滅ぼします」

「なんだと!」

「ですが、貴女の首を取らせて貰えるのなら、セルティアを見逃すことにしましょう」

「……は?」

「……それだけの価値が、貴女にはあるのですよ。セルティア国王の首よりもよほど価値がある。──この星にとって!」

 アレクセイが踏み込んだ。

 目にも止まらぬ速さでアリアへと肉薄したアレクセイは、音速の抜剣でアリアの首を狙った。

「くうっ……」

 長年戦場で培ってきた勘で体が動く。首を狙ってきたアレクセイの片刃の長剣を腕を交差して受け止めた。身に纏った闘気は剣を肉まで届かせない。

「見事な腕です。ですが」

 すぐに身を翻し、アレクセイの強烈な横薙ぎがアリアの胴を打った。

「ふぐっ……」

「抵抗すれば苦しいだけです」

 更に襲い掛かってくる剣を、腕や脚で払い落としていく。その度に凄まじい衝撃が全身に走った。まるで雷に打たれたような痺れが駆け巡る。今にも意識が飛びそうだ。

 だが、意識を飛ばしたら体は真っ二つにされる。常に気を張り、最大出力で剣を止めなければならない。

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