空よりも高く 海よりも深く
 これで勝敗は決したと、アレクセイは思ったのだが。

 その剣は、小さな拳を貫いて止まっていた。

「まだ、抗いますか」

「抗うとも」

 アリアは顔中を血で濡らしながらも、笑って見せた。

「苦しめたくはないのですが」

「偽善を語るか、鬼に成りきれぬ青二才が」

 アレクセイの動きが止まる。

「非道になりきれん餓鬼が大それたことをするんじゃない。……そんな泣きそうな顔で人を殺すな。貴様の心が壊れるぞ」

 アレクセイは薄い唇を開いた。

 だが言葉は出て来ず、また口を閉じることしか出来なかった。

 長い間戦場にいると、戦う相手の心がなんとなく解るようになるのだ。何を想って向かてくるのか。拳と拳で、目と目で語り合うことが出来るようになる。

 アリアもアレクセイと剣と拳を交えて、彼の心の一端に触れた。

「何をしようというのだ、星府軍元帥。惑星王に忠誠を誓っているはずのお前が、何を以てこのようなことをする。……共に、敵に立ち向かうことは出来んのか」

 アリアの真摯な目に、アレクセイは僅かに闇色の瞳を揺らした。

「それが出来れば、どんなに良かったか」

 苦悩に満ちた小さな呟き。

 アレクセイはアリアの拳から剣を抜き、そして柄を両手で握りしめた。

「貴女の死は、この世界を救う礎となるだろう」

「世界を、救う? ……どうやってそんなものになるんだか」

「貴女が知る必要はない。伝えないことが、せめてもの、貴女への詫びだ」

 ありがとう、と。

 アレクセイの唇が動いた。

 握りしめた剣が、真っ直ぐにアリアの心臓を貫く。アリアは抵抗しようとした。アレクセイが何を考え、何をしようとしているのか、聞くまでは還れないと。

 けれどもそれをアレクセイは赦さなかった。苦しみを与えずに、真っ直ぐに安らかな死へと導いた。

 アリアが苦悶の表情を浮かべたのは、ほんの一瞬。

「アリアっ……」

 ガルーダが身を乗り出す。

 彼女の燃えるような赤い髪、それよりも更に濃い紅が、華奢な体の下に広がっていく。

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