空よりも高く 海よりも深く
◇魔族軍強襲◇
1.真夜中の拳闘士
星暦2023年9月2日
東の大陸 セルティア国北部
真夜中。
激しい暴風雨の中、セルティアの北西に位置するストランド国との国境沿い山岳部にて、魔族の大群と国防軍がぶつかった。
しかし国防軍は圧倒的に数で劣っていた。
国のあちこちで起こる戦のため、軍勢を裂かれていたからだ。
時折山から人里まで降りてきては、悪戯のように人を殺めていた魔族。それは小規模なものから、村ひとつを壊滅させるほどの大規模なものまで様々であった。
だが魔族はたとえ同種であろうと群れる習性を持たなかったため、抗争は魔族討伐専門機関ギルドの傭兵だけでなんとか抑えられる程度のものでしかなかった。それなのにこの一ヶ月で、拮抗していた力関係が突然崩れ始めた。
魔族が軍を成して攻め入ってきたのである。
彼らの中でどんな革命が起きれば、そのような事態になるというのだろうか。
ともかく、開戦の火蓋は切られた。
有事の際には国の兵力として働く契約を結んでいるギルドの傭兵だけでなく、本来魔族討伐には向かない国の軍兵、果ては民間人を招集した義勇軍まで巻き込んでの防衛戦──戦争へと発展していった。
このような戦は前例がなく、隙を突かれる形で防壁のない町や村は次々に襲われ、炎上し、消えていった。
間の悪いことに、そこに更なる厄災が降りかかる。
前代未聞の天変地異が世界中を襲い始めたのである。
大雨、洪水、高波、竜巻、地震……次々に襲いかかる天災は、魔族との争いが激化していく中どんどん悪化。山では土石流が起こり、休火山まで噴火する。頻発する地震は津波を引き起こし、人も魔族も関係なしに呑み込んでいった。
そうして気がついたときには、精霊たちが姿を隠してしまっていた。結果、人間側は更なる劣勢を強いられることになる。
人と精霊はずっと共に魔族と戦ってきた。だがこの自然を壊そうとする行いを嘆いているのか、それともこの世界の覇権を欲する醜い欲望を恐れているのか……いつの間にか、人の傍からいなくなった。
精霊の力なき人間は、身体能力で勝る魔族の前では赤子のような存在。
炎に焼かれ、氷に貫かれ、爪に体を引き裂かれ……残虐の限りを尽くす魔族たちに、兵士たちは成すすべがない。
まともな戦力は魔族討伐を生業とする傭兵たちだけだ。彼らは魔族にも劣らない身体能力を持った、選ばれし精鋭。しかし、数が圧倒的に少ない。見る間に押され、敗走することになった。
東の大陸 セルティア国北部
真夜中。
激しい暴風雨の中、セルティアの北西に位置するストランド国との国境沿い山岳部にて、魔族の大群と国防軍がぶつかった。
しかし国防軍は圧倒的に数で劣っていた。
国のあちこちで起こる戦のため、軍勢を裂かれていたからだ。
時折山から人里まで降りてきては、悪戯のように人を殺めていた魔族。それは小規模なものから、村ひとつを壊滅させるほどの大規模なものまで様々であった。
だが魔族はたとえ同種であろうと群れる習性を持たなかったため、抗争は魔族討伐専門機関ギルドの傭兵だけでなんとか抑えられる程度のものでしかなかった。それなのにこの一ヶ月で、拮抗していた力関係が突然崩れ始めた。
魔族が軍を成して攻め入ってきたのである。
彼らの中でどんな革命が起きれば、そのような事態になるというのだろうか。
ともかく、開戦の火蓋は切られた。
有事の際には国の兵力として働く契約を結んでいるギルドの傭兵だけでなく、本来魔族討伐には向かない国の軍兵、果ては民間人を招集した義勇軍まで巻き込んでの防衛戦──戦争へと発展していった。
このような戦は前例がなく、隙を突かれる形で防壁のない町や村は次々に襲われ、炎上し、消えていった。
間の悪いことに、そこに更なる厄災が降りかかる。
前代未聞の天変地異が世界中を襲い始めたのである。
大雨、洪水、高波、竜巻、地震……次々に襲いかかる天災は、魔族との争いが激化していく中どんどん悪化。山では土石流が起こり、休火山まで噴火する。頻発する地震は津波を引き起こし、人も魔族も関係なしに呑み込んでいった。
そうして気がついたときには、精霊たちが姿を隠してしまっていた。結果、人間側は更なる劣勢を強いられることになる。
人と精霊はずっと共に魔族と戦ってきた。だがこの自然を壊そうとする行いを嘆いているのか、それともこの世界の覇権を欲する醜い欲望を恐れているのか……いつの間にか、人の傍からいなくなった。
精霊の力なき人間は、身体能力で勝る魔族の前では赤子のような存在。
炎に焼かれ、氷に貫かれ、爪に体を引き裂かれ……残虐の限りを尽くす魔族たちに、兵士たちは成すすべがない。
まともな戦力は魔族討伐を生業とする傭兵たちだけだ。彼らは魔族にも劣らない身体能力を持った、選ばれし精鋭。しかし、数が圧倒的に少ない。見る間に押され、敗走することになった。